画期的な薬が続出で命が救われる一方、その高額医療費を健常者が負担、国民皆保険崩壊も
日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とすといわれています。日本人の死因トップであるがんの治療は、主に3大治療といわれる外科的手術、放射線治療、そして化学療法(抗がん剤治療)によって行われています。
しかし、このがん治療が大きく変わる可能性が出てきたのです。日本の医療体系を覆してしまうかもしれない薬の名前は「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)です。
がん細胞によって活動を制御されていた免疫細胞のブレーキを解除し、自分の免疫力を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬、「免疫チェックポイント阻害薬」としてオプジーボが承認されたのです。
本連載前回記事において、オプジーボの薬剤費は、体重60kgの患者の場合、点滴1回133万円、1カ月で約330万円、1年間では約3500万円にも上るという計算をしました。合わせて、この全額を患者自身が負担するわけではなく、高額療養費制度によって自己負担は一般的に月額8万7000円ほどで済むということも説明いたしました。その残りは国費や保険料で賄うことになります。
肺がんの新規患者は年間約11万人といわれています。オプジーボの使用対象となるのは、「手術による治療が難しく、ほかの化学療法で効果が出なかった患者や手術後に再発した患者」とされています。その対象となる患者数を5万人として、仮に全員が1年間オプジーボを使った場合、その薬剤費は1兆7500万円となります。
薬剤費抑制に乗り出した厚労省
10兆円を超えたと問題になっている薬剤費が、さらに跳ね上がるのです。そこで、厚生労働省も対策に乗り出しています。今年4月に「特例拡大再算定」と呼ばれる制度を導入したのです。1年間で1000億円以上の売り上げがあった場合、その薬の薬価を最大で25%、1500億円以上なら50%下げることができるという仕組みです。高額薬剤4種類が対象となり、オプジーボもその対象となっています。すでに、昨年発売されたC型肝炎治療薬「ハーボニー」は32%下げられています。
当然、製薬会社はこれに反発しています。多田正世・前日本製薬工業協会会長は、「市場規模拡大だけで薬価を引き下げるルールは、イノベーションの適切な評価に反しており、容認できない」と表明しています。米国研究製薬工業協会のジョージ・A・スキャンゴス会長も「薬価が突然下がるような仕組みがあると、日本に投資しづらくなる」と批判しました。