新型コロナウイルスの感染予防対策の行動制限は緩和されたが、手指消毒は今後も継続すべき対策である。そんななか、消毒用のアルコールスプレーで、幼児が急性アルコール中毒を起こしたというツイートが話題になっている。
保育園で恐ろしいプリントが回ってきた。急性アルコール中毒で救急搬送された子がいるって。初めは血液検査しても原因が分からなかったみたい。よく話を聞いたら、担任に隠れてアルコールスプレーを手にふきかけて舐めていたらしい。今の時代だからこそ気を付けなきゃいけない事故だよね。
— のりせんせい (@Norisensei_) May 28, 2022
ツイートによると、保育園で「急性アルコール中毒で救急搬送された子がいる」との情報が流れたという。子供が担任に隠れて消毒用のアルコールスプレーを手にふきかけて舐めていたことが原因のようだ。
消毒用アルコールスプレーによって急性アルコール中毒が起きる可能性について、有明みんなクリニック、有明こどもクリニック、有明ひふかクリニックの理事長で小児科医の小暮裕之医師に話を聞いた。
「一般に急性アルコール中毒とは、アルコールを短時間に多量に摂取したために通常の酔った状態を超えてしまい、意識レベルの低下、呼吸状態の悪化、血圧低下などといった状態が生じることです。重症の場合には昏睡状態となり、呼吸抑制や血圧低下が進み死亡することもあります」
小児が急性アルコール中毒になるほど消毒用エタノールを舐めるなど、大人には想像できない事態であるが、同様の事故が再発しないように十分な配慮が必要といえるだろう。
「消毒用アルコールは高濃度のエタノールなので、手指消毒に使用してもすぐに揮発します。スプレー等で手につけた消毒用アルコールを舐めて急性アルコール中毒になることは、考えにくいかもしれません。しかし、高濃度であるため、少量でも誤飲してしまうことがあれば、非常に危険です」
小児にとってアルコールは、毒といっても過言ではない。
「小児はアルコールを分解する力が弱く、肝臓で分解途中のアセトアルデヒドという毒素が、高濃度の状態で体内に長時間残り、頭痛や吐き気など、さまざまな健康被害を引き起こします。幼児が急性アルコール中毒になるまで消毒用アルコールを舐めることは、稀な例だとは思いますが十分な注意が必要です」
アルコール過敏症にも注意を
アルコール消毒による急性アルコール中毒は稀な例ではあるが、アルコールに対するアレルギーで発症する「アルコール過敏症」にも注意が必要だと、小暮医師は指摘する。
「アルコール過敏症とは、アルコールの成分であるエタノールに触れることで起きるアレルギー症状であり、皮膚のかゆみや発疹や、揮発したエタノールを吸い込むことによる悪心や吐き気などが起きます。また、重症の人では、呼吸困難に陥ることもあります」
アルコールに触れる経験値の少ない小児では、これまでアルコール過敏症はない場合でも、突然、発症する可能性もあるという。
「アレルギーの発症はコップの水に例えられ、コップに水を徐々に注いで一定量を超えると溢れ出る現象に似ています。大人の管理の下、適正な量を使用している時はアレルギーが起きていなかったものが、お子さんがアルコール消毒のスプレーを過量に吹きかけているうちにアルコール過敏症を発症するという可能性はゼロではありません」
また、アルコール過敏症がない場合でも、アルコール消毒は皮膚や粘膜への刺激が強く、目に入ると危険だという。
「アルコールが目に入り、角膜に炎症が起きる可能性もあります。痛みや充血があるという場合には、早めにお近くの眼科を受診してほしいと思います。商業施設等の出入口には、大人が使いやすい高さにアルコール消毒のスプレーが置かれていますが、小児にとってはちょうど目の高さになりますので、目に入らないように注意してください」
消毒用アルコールを舐めてしまったという幼児のように、子供の好奇心は時に思いもよらない行動を起こす。今後も続くコロナ禍にアルコール消毒は必須アイテムのひとつであり、広い世代が使用するということを考慮した危険予測の下、十分な管理が必要といえるだろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)