今、海外で原因不明の子どもの急性肝炎が相次いでいる。
世界保健機関(WHO)によると、4月21日までに英国を中心に報告された子どもの急性肝炎は、12カ国で169人(生後1カ月~16歳)にも上る。その約1割にあたる17人が肝移植を必要とする重篤な状態になり、うち1人が死に至った。国内でも、この肝炎の可能性があるケースが7例報告されており、不安が広がっている。
小児の肝炎について、有明みんなクリニック、有明こどもクリニック、有明ひふかクリニックの理事長で小児科医の小暮裕之医師に話を聞いた。
子供では稀な急性肝炎とは
小児の急性肝炎がニュースとなっているが、小児が急性肝炎になることは、珍しいものなのだろうか。
「お子さんが、今回のような重症な急性肝炎を発症することは非常に珍しいと言えます。小児科の専門医が入院患者さんや外来患者さんを診察する中でも、小児の重症な急性肝炎は極めて稀です。一方で、肝機能を示すGOT、GPTの数値が2~3倍になるような軽微な肝機能低下を認めるケースは多くあります。それらは無症状な場合が多く、風邪や薬の影響などによる一時的なものです」(小暮医師)
急性肝炎を発症すると、その症状は全身に及び、命を脅かすこともあるという。
「肝臓は生命を維持する上で非常に大切な臓器です。代謝、解毒作用、胆汁の生成・分泌などの働きがあります。代謝とは、食べ物からタンパク質を合成し、吸収された栄養素を体内で利用できる形に変えて、供給、貯蔵する働きをいいます。解毒とは、有害な物質を分解し、無害な物質に変え、排出されるようにする働きです。また、肝臓で生成・分泌される胆汁は、脂質の消化吸収を助ける作用があります」(同)
急性肝炎を発症すれば、肝臓の機能が低下し、健康障害が起きることになる。
「急性肝炎を発症すると、全身症状が現れます。倦怠感や食欲低下や悪心・嘔吐に始まり、重篤になると黄疸が出現し、さらに症状が進むと肝性脳症が起き昏睡状態から死に至ることがあります」(同)
黄疸とは、肝臓の機能低下により血液中のビリルビンが増加し、皮膚や眼球結膜(白眼)が黄色くなる症状をいう。肝性脳症は、肝臓の解毒機能が低下するために起こる。肝臓には体に有害なアンモニアなどを解毒する働きがあり、急性肝炎によって肝臓の機能が低下すると、アンモニアなどの有害物質を解毒できなくなる。すると、アンモニアなど有害物質の血中濃度が上昇し脳へ運ばれ、脳機能が抑えられ、肝性脳症を発症する。
小児の生理機能は成人と比べ未熟であり、小児が重症な急性肝炎を発症すれば、重篤になる可能性が高いといえる。
肝炎ウイルスの感染?
「一般に肝炎ウイルスとしては、A、B、C、D、E型の5種類が確認されていますが、どの肝炎ウイルスも子供が感染することは考えにくいと思います」(同)
A型肝炎は衛生環境が悪い国で発生しやすく、B型肝炎では、感染経路は母子感染になるが、現代の医療では感染予防処置が行われるため感染を防ぐことができる。C型肝炎は慢性肝炎を引き起こし、長期間かけ肝硬変などに移行することがある。D型肝炎は、B型肝炎と重複発症する肝炎である。E型肝炎は豚・イノシシのレバー、シカ肉の生食からの感染例があるが、発生件数は非常に少ない。こういった特徴からも、小暮医師の見解通り、肝炎ウイルスに小児が感染することは考えにくい。
現在までに海外での急性肝炎に関しては、アデノウイルスが原因との推察もあるが、小暮医師は結論を出すには時期尚早だと言う。
「通常のアデノウイルス感染は鼻炎、咽頭炎、扁桃炎や胃腸炎、結膜炎などの症状で、肝炎を起こしにくいウイルスです。また、小児の急性肝炎は、年間で数十件程度だと思います。現在までの報告では7例であり、“少し多い”という印象です。これ以上増加し、数十人、100人と増えていく場合には感染症などの原因が考えられ、早急な対策が必要になると思います」(同)
現在の7例という報告数からすると、海外で報告される集団発生とは異なる可能性もあり、冷静に今後の推移を見るべきだろう。
子どもは「食う・寝る・遊ぶ」が大事
肝炎の初期は目立つ症状が乏しく、普段の健康観察を十分に行う必要がある。
「子どもの場合、“食う・寝る・遊ぶ”が大事です。食事、睡眠が取れない、遊ぶ元気がないといった変化があれば、なんらかの不調と考えるべきでしょう。肝機能の低下を調べるには、血液検査が必要となりますので、そういった症状が続く場合には、早めに医療機関を受診することをお勧めします」(同)
小児の急性肝炎については詳細が不明なことも多いが、ウイルス感染などの場合、人から人への感染が起きる可能性も考え、対策をすべきだろう。
「ウイルス感染の場合、飛沫、経口感染などが考えられるため、アルコール消毒、手洗い、うがい等を心がけてください」(同)
基本的には新型コロナウイルス対策と同じで、いまや日常的になっているが、あらためて留意して生活したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)