「独身・非正規・低所得」――就職氷河期をくぐり抜けた世代には、これらに当てはまる人も多いのではないだろうか。現時点でも経済的に苦しい日々を過ごし、働けなくなった老後はもっと苦しくなることが必然で、頼りは年金のみ。しかし、その年金制度も破綻する可能性が高いといわれ、このまま歳を重ねていけば、将来的に氷河期世代の多くが生活保護を受給することになるとも予想されている。
「30年後には独身・低所得の高齢者であふれ返り、日本の財政は年金ではなく生活保護で破綻する」と警鐘を鳴らすのは、中央大学文学部教授の山田昌弘氏だ。家族社会学を専門とする山田氏に、将来起こり得る財政リスクと、その背景にある社会構造の変化について聞いた。
年金より生活保護が先に破綻する?
「日本の財政において年金と生活保護は別会計のため、年金制度自体はなんとかなるでしょうが、生活保護の制度は破綻する可能性があります。たとえば、いくら生活を切り詰めても資産や家族がない高齢者が月6万円で暮らせるわけがありません。そのため、足りない分は生活保護で補填する可能性もあり、そうなると間違いなく破綻します」(山田氏)
山田氏の言う「6万円」とは、国民年金のみの月あたりの受給額(満額)を指す。厚生労働省年金局が2018年12月に発表した「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民年金受給者の平均月額は5万6000円だった。厚生年金保険(第1号)の場合は、平均月額14万7000円(老齢年金)となっている。
ただし、これは現在の平均額だ。現行の賦課方式では、少子化により現役世代が減っていけば受給額が下がるのは必然である。それでも、たとえ少額であっても納付者に給付されていれば、曲がりなりにも年金制度は成立しているといえる。一方で、無年金者が生活保護の対象になるケースが増えれば、前述のように制度破綻のリスクが高まってくる。
「年金の受給額も下がりますが、生活保護の水準も今より相当下げる必要が出てきます。国民年金をもらえず、ごくわずかな生活保護の給付金のみを頼りにする人が増えれば、日本にスラム街ができる可能性すらあるでしょう」(同)
格差が広がる日本はもはや“階級社会”
1991年のバブル崩壊以降、20年以上の長きにわたって有効求人倍率が1を割り、「就職氷河期」と呼ばれる時代があった。その時期に就職のタイミングを迎えた70~83年生まれの世代は一般的に「就職氷河期世代」と呼ばれている。現在、この世代は「家庭を持つか、持たないか」問題の真っただ中、あるいはひと山越えたあたりだろうか。そんな家族や資産の有無も含めて、山田氏は「今の日本は階級社会化が進んでいる」と指摘する。
「長く続いた『すべての人に家族がいて経済的に安定している』という前提条件が崩れてきています。結婚しなかったり子どもがいなかったりする世帯が増えると、年老いてから経済的に行き詰まる可能性が高い。逆に、家族がいても、非正規で共働き、または老々介護などで家族を助ける資金力がないというケースもある。そもそも家族意識そのものが薄れてきており、従来の前提条件に当てはまる人とそうでない人との間に格差が広がっています」(同)