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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

Go To利用、まったく正反対の人たちが、ちょうど半数ずつ存在…“不思議な感覚”の正体

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
Go To利用、まったく正反対の人たちが、ちょうど半数ずつ存在…“不思議な感覚”の正体の画像1
「Getty Images」より

 11月1日、今回で2度目となった大阪都構想の住民投票は、ほぼ真っ二つに意見が分かれた結果、賛成49%対反対51%で否決されました。

 その2日後、投開票が始まったアメリカの大統領選挙は、当初バイデン候補の圧勝かと報道されていましたが、トランプ候補の巻き返しで思わぬ大激戦となり、最終確定は裁判所に持ち込まれそうです。11月6日時点での得票数暫定値ではバイデン候補51%対トランプ候補48%と、こちらもきれいに結果が真っ二つに分かれています。

 もうひとつ全然違うジャンルでの真っ二つの事例を紹介します。大手新聞によるGo To トラベルについての世論調査の結果です。「利用したい、ないしはすでに利用した」が全体の51%、これに対して「利用したくない」が46%とこちらも意見がほぼ真っ二つ。さてさて、ここまでがまず話の前振りの第一弾です。

 次に別の側面でこの話を見てみましょう。

 大阪の友人の話なのですが「今回は圧勝で大阪都になるとばかり思っていた。だって周りの意見はみんなそうだったのだから」と言うのです。彼によればツイッターのタイムラインをみていても、仲間と飲み会に出かけても、まさか否決になるという雰囲気は微塵もなかったといいます。

 アメリカの大統領選挙も、メディアの現地報道によればまったく同じ雰囲気だったとのことです。バイデン候補の支持者の周囲にはバイデンの圧勝を信じる人ばかり。一方でトランプ候補を支持する地域の空気も、トランプ圧勝以外にありえない空気だったといいます。

 アメリカの大統領選挙は間接選挙といって、総得票数ではなく、それぞれの候補がどれだけの州を獲得したかで争われます。選挙結果を示すアメリカの地図も、バイデン候補の青とトランプ候補の赤で地図が真っ二つに色分けされています。

 ざっくりといえば、ハイテクで潤うアメリカ西海岸と金融で潤う東海岸やシカゴ近辺は青。それ以外の工業や農業で暮らす住民が多い地域は赤に地図の色が分断されています。そしてそれぞれの地域ではバイデン支持、ないしはトランプの支持者が圧倒的に多数になる。トランプが強い地域のトランプ候補の支持者にとってみれば「まさか負けるとは思っていなかった」ということになるわけです。

世の中が元に戻ったかのごとくの錯覚

 さてこの現象を踏まえて、今回、本格的に取り上げたいのは、実は三番目に紹介したGo To キャンペーンの話です。私の周囲を見ても利用意向が真っ二つに分かれています。

 Go Toが楽しくてしょうがなくて沖縄に行った翌々週末には今度は京都旅行だという知人や、それまでずっと出勤したら夜は家に戻るだけの毎日だったのが、Go To イートが始まってからは週3ペースで飲食店で豪遊してから帰るという友人が私の周囲に実際にいます。

 一方で、「それでも新型コロナが怖いからあまり外に出たくない」「Go Toのせいでまたコロナが増えているような気がしてとても心配だ」という知人も実際にいます。

 では世の中の平均はどうなのでしょう。実際に取材目的で軽井沢に出かけてみたところ、現地は観光客で大賑わいの状況です。旧軽井沢に向かう国道は自動車で渋滞ですし、ホテルのチェックインではフロントから廊下に続く長い行列に長時間並ぶことになりました。ガラガラではないかと予想した地元のレストランも客で賑わい、商店街ではどのお店も店頭に「地域共通クーポン券利用できます」のポスターが貼られ混雑しています。

 旅行に出かける前の私の予想はもっと閑散とした軽井沢を想像していました。実際、7月頭にプライベートで旅行した軽井沢はそんな感じだったのです。ところがGo Toおそるべしで、11月に再訪した軽井沢はまるで新宿の繁華街のように需要が持ち直していたのです。

「そもそも国民の半分が外出したくないと言っているのに、なぜ観光地があれだけ賑わっているの? 国民がコロナが怖いなんていう報道は偽情報じゃないのか?」

 そう疑ってしまうかもしれませんが、実は真実はそうではなくて、国民の半数はあいかわらずコロナを恐れて自粛生活を行っている一方で、国民の半数がコロナの新しい日常に慣れて大胆に活動を始めている。だから両極端の行動が起きて、その結果、世の中が元に戻ったかのごとくの錯覚が起きているのです。この状況は今年5月に私が予言した記事がそのまま現実になったものです。

 さきほど紹介した世論調査でも、全体の46%がGo To トラベルを「利用したくない」と回答したといいましたが、なかでも70歳以上は62%が「利用したくない」、30%が「利用した、ないしはしたい」と言う回答で、外出拒否の傾向が強いことを示しています。一方で18~29歳の若者層は「利用したくない」が31%に対して「利用した、ないしはしたい」が68%。つまりおもしろいほど数字が逆転しているのです。

 これは21世紀型の分断社会のリアルとでもいうべき現象です。まったく意見が正反対な人たちが世の中のそれぞれ半数を占めていて、それぞれの日常も、SNSなどのメディアを通じてみる世界もまったく異なっている。それが平均化されることで、どちらの立場から見ても「少しおかしい」と感じる平均的な世の中の姿が描かれるのです。

 それに気づかないで、

「感染者数がついに1000人を超えたにもかかわらず、なぜGo To トラベルなどやるのか?」

と疑問に感じたり、逆に

「1泊2日の大阪旅行で一流ホテルに泊まっても交通費込みでツアー代金が実質1万6000円。この時期だから宿も航空券も安くとれる。普通に新幹線の切符を買ってホテルを取れば4~5万円なのに、なんでGo Toで旅行に行かないのか? 行かない人の気持ちがわからない」

とそのメリットを強く主張する人がいて、それぞれの主張が正反対なのです。

 実際に起きている社会現象はその平均値です。つまりGo To トラベルで賑わう観光需要も、Go To イートでにぎわう飲食店需要も、どちらも半分はそもそも新型コロナの影響で需要がまったくなくなってしまったもので、残り半分はGo To キャンペーンという国策で人工的につくられた爆発的な需要だということです。そう考えると、今年の秋冬はGo Toのおかげで無事に年を越せそうな関係者も、来年2月からはまた需要が半減する寒い時期を覚悟すべきかもしれません。

新しい時代の始まり

 話を分断社会に戻して、Go To キャンペーンの経済構造を考えてみます。国家予算約1.7兆円を投下して新型コロナで壊滅的な状況に陥っている観光業界や飲食業界、イベント業界を救おうという政策なのですが、国民ひとりあたり1万3500円程度の税金がその原資になっていることが、単純計算すればすぐにわかります。

 たとえば同じ3人家族でも、80歳と75歳の夫婦が50歳の息子と同居している世帯では「とてもじゃないけどコロナの時期は外出したくない。それにしても合計4万円の税金をこんなことで使うのは怒りを感じる」ということになりますし、30歳と25歳と4歳の娘の3人家族なら、「年齢的にもコロナは大丈夫。仕事の収入ではこんなおいしい思いは二度とできないから毎月旅行と外食に行ってできるだけ元をとろう」と考えることになります。

 その際に全体がバランス良く成立するためには、後者の家族がこのGo To キャンペーンの期間に8万円おいしい思いをしてはじめてマクロ政策で収支が合うことになります。なぜなら後者の家族に関しても一世帯あたり4万円相当の税金がかかっている計算だからです。

 つまり国民が真っ二つに分断された世界では、5割の人たちが「Go To怖い」と言って家にひきこもり、5割の人たちが「Go Toお得じゃん!」と喜んで2 度旅行に出かけ、10回ディナーを楽しみ、合計8万円のおトクをゲットするようなおかしな出来事が起きて、それで世の中の経済がなんとか回るというような不思議な出来事が起きるのです。

 こうして平均だけを見ていると、世の中がまったく理解できず、逆に身の回りだけを見ていると世の中の両極端のどちらかしか目に入らないという、とても不思議だけれどもそれが現実であるという新しい時代が始まっているという話なのです。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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