米大統領選「投票不正」の証拠も根拠もない…トランプ陣営、側近が次々と“逃げ出し”
米国の民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)は7日夜、地元の東部デラウェア州ウィルミントンで国民に向けた演説を行い、大統領選について「確信できる勝利だ。国民は7400万以上の票をもって当選させてくれた」と述べ、勝利宣言した。共和党のドナルド・トランプ大統領(74)が法廷闘争による抵抗の構えを見せるなか、「選挙戦は終わった」とも強調した。
一方、トランプ氏はツイッターで「7100万票の合法的な票を得て、この選挙に勝った。現職大統領として過去最多だ!」「我々の監視員は開票所に入ることを許されなかった。見えないところで悪いことが起きた」などと「勝利」を訴え続けた。トランプ陣営は接戦州で票の集計をめぐって提訴しており、法廷闘争での「逆転」を目指しているが、肝心な「不正」の具体的な証拠を示しておらず、法廷闘争に持ち込めるかどうかも不確実だ。
拡大する米国内の混乱
トランプ氏はバイデン氏が当選を確実にしたことに関し、7日の声明で「選挙は終了にはほど遠い」と主張し、週明けの9日から訴訟攻勢や再集計要求を通じて徹底抗戦していくと表明した。トランプ陣営は激戦州の東部ペンシルベニア州で、投票資格のない人やすでに亡くなった人の投票を集計しているなどとして、適切に点検されなかった投票用紙が何万票もあったと主張している。
こうした票の再点検が認められて不正の証拠が見つかる可能性は非常に低いが、ゼロとはいえない。トランプ氏には、集計で不正を疑っているのであれば、裁判所に訴えて真実を探る法律上の正当な権利がある。
だが、最大の問題点はトランプ陣営が集計結果を覆すような「大規模な不正」があったことを示す具体的な証拠や、説得力のある根拠を示すに至っていないことだ。逆にトランプ氏の支持者らは7日、「ストップ・ザ・スチール(盗むのをやめろ)」と銘打った抗議デモを中西部ミシガン州、南部テキサス州、西部アリゾナなど各地で開催。米メディアによると、西部オレゴン州では選挙の不正を訴えるトランプ氏支持者らと、それに抗議する集団の一部が衝突し、逮捕者が出る騒ぎとなるなど、米国内での混乱がますます拡大しており、「民主主義国家の手本」といわれた米国の民主主義が衰退していることを思わせるに十分だ。
トランプ政権が「レームダック」に
このようななか、トランプ陣営内部でもトランプ氏を見限る動きが出ている。米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏の側近が次々とホワイトハウスから離れていると報じている。来年1月20日の米大統領就任式まで、トランプ大統領の任期は約2カ月半残っているが、トランプ政権が「レームダック」になるのは確実だ。これを見越して、トランプ氏が根拠を示さない「不正投票」について法廷闘争に勝利するのは無理との判断が働いているという。
これについて、トランプ陣営の最長老の側近(顧問)であるクリス・クリスティ元ニュージャージー州知事は公開の場で、「トランプ大統領は自身が語っているバイデン陣営の不正に関して、しっかりとした証拠を示す必要がある」と述べて、トランプ氏が主張する「不正」の事実を明らかにするよう求めている。
これを受けて、他の側近らはトランプ氏の顧問弁護士であるルドルフ・W・ジュリアーニ氏に「トランプ大統領が法廷闘争を止めるように説得してほしい」と要請。ジュリアーニ氏は了承し、トランプ氏にその旨を伝えたが、トランプ氏は「ペンシルベニア州で敗北宣言の記者会見を開く」というジュリアーニ氏の提案を拒否し、あくまでも法廷闘争を戦い抜くと強調したという。これを受けて、側近らは、トランプ氏への説得は無理と見て、黙ってホワイトハウスから出ていっているというのだ。
トランプ氏は法廷闘争に最後の望みを託すのだが、果たしてトランプ氏の思惑通りに、最高裁での判決がトランプ氏の望むような結果になるのかを疑問視する声がある。
著名なジャーナリストであるトーマス・フリードマン氏がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したコラムで、最高裁はトランプ氏が提起した選挙での不正について、確固たる証拠を出さなければ、審理にも入れないのではないかと指摘しているのである。
また、同紙コラムニストも別の記事で「選挙期間中に、今回のような大きな混乱を生んだ大統領選を今後再び繰り返してはならない」と強調。フリードマン氏は「アメリカの分断を許した大統領選での本当の敗者はトランプでなく、アメリカそのものだ」とも主張しており、今回の大統領選は米国に再起不能なほどの深い傷跡を残したといえそうだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)