脱サラ後に飲食店をはじめても、小売業をはじめても、サービス業をはじめてもいい。しかし、その廃業率は、それぞれ開業率を上回る。もちろんこれはマクロの数だ。したがって、ミクロな事情は表現していない。もちろん、独立に絶対の自信をもっている人もいるだろう。多かれ少なかれ、誰でも独立するときは自信をもっている。
先日、社会保険労務士の前で講演する機会があった。講演後に最初に飛び出した質問が「独立したらやっていけるでしょうか。3年は無収入を覚悟しておけといわれたのですが」。私は言葉を失った。また先日、士業の集まるパーティーに呼ばれた。「甘い言葉に誘われて独立したら、年収が200万円にも満たない。再就職先を知りませんか?」といわれた。またしても、言葉を失った。
いまは会社に残るも、会社を飛び出すも、悲哀と悲惨があるだけなのか。
会社を飛び出すのではなく、せっかく入社した会社を活用する独立を
私が調子にのって独立した直後の話だ。出版して仕事の依頼の電話が鳴り止まない、はずだった。しかし、独立直後に出した本はさっぱり売れず、「全国の紀伊國屋書店全店で売れた1日の冊数は、たった4冊」と聞かされた。入ってきたのは初版の印税だけだった。出版社が1万冊も刷ってくれたので、10,000冊×700円×10%=700,000円だった。70万円だからいいじゃないか、という人もいるだろうが、執筆に半年をかけていた。これを6カ月で割ると、11万7000円にしかならず、居酒屋でバイトしていた頃の時給以下だった。「会社を飛び出してもなんとかなる」という自信はあとかたもなくなった。
ビジネス書の著者は羽振りがよいフリをしているが、実際に聞いてまわるとそんなことはなかった。多くはあえいでいるか、本はオトリで読者に高額な自己啓発セミナーを売りつけているだけだった。でも、そんな自己啓発セミナーなんてやりたくない。
半年ほとんど売上がなく、ウツ状態になりそうだった。かつて売れた本を書いたから、といって取り上げてくれるメディアもない。企業に売り込みにいっても「あんたのことなんて知らねえよ」といわれた。そこから、徹夜でセミナーを開催したり、コンサルティングをやらせてくださいと土下座したり(ほんとうに土下座した)、雇われ講師となったり、とにかく七転八倒を繰り返した。半年の無売上から、1年後にはポツポツと仕事が入るようになり、会社員時代並みに安定するまでに2年を費やした。苦労を美談として語る人がいるけれど、私は決してそうはしたくない。単に私の読みが甘かったにすぎない。