斬新だったビジネスモデルが、見る間に褪せてくる――。
ファミリーマートをはじめとして、エネオス、ガスト、ソフトバンク、ヤフーなどでポイントが付加される「Tポイント/Tカード」が衰退の危機に晒されている。今でもファミマで買い物をすれば、「Tカードをお持ちですか?」と聞かれるが、近いうちに、その声も聞かれなくなるかもしれない。
Tポイントの屋台骨は、全国に約1万7000軒の店舗を持つファミマ。だがファミマはTポイントを運営するTポイント・ジャパン(TPJ)の株式を売却する方針を明らかにした。今後は、Tポイントとの独占契約は終わり、「楽天ペイ」やNTTドコモの「d払い」にもポイントが付与されることになる。
楽天ペイやd払いは、スマートフォン(スマホ)のアプリを使ったキャッシュレスのQR決済だ。スマホのバーコードを店頭でスキャンしてもらうだけで、支払いが済みポイントも貯まるということになる。
ポイントカード的なサービスは、個々の商店や商店街、デパート、家電量販店、航空会社などで行われてきたが、TSUTAYAのレンタル会員証から派生して2003年に誕生したTカードは、「共通ポイント」という概念を初めて打ち出した。クレジットカード業界や電子マネーに関する書籍を数多く発表している、消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏は語る。
「出てきた時は、すごく新しいモデルだったんです。Tポイントというのは大きな信条があって、一業種一社という原則を守った。コンビニはファミマだけ、ガソリンスタンドはエネオス、スーパーならマルエツ、ファミリーレストランならガスト、焼き肉チェーン店なら牛角、牛丼なら吉野屋、コーヒーショップならドトール、服飾店なら青山というかたちで広がってきたわけです。もちろんレンタルショップは、TSUTAYAです」
さまざまな業種で使えるならポイントが貯まりやすいということで、Tカードを持つ消費者は増え、現在その数は約6700万人。普通に消費活動をしていて、TSUTAYAでレンタルする時にポイント利用すれば無料になることも多く、消費者にとってはお得感が実感できた。ちょっとした都市であれば、コンビニやファミレス、コーヒーショップは多数あり、せっかくならポイントが貯まる店に行こうということになり、利用者とTカード取扱店はウィンウィンの関係だった。
「2010年に登場したPontaは、Tカードをモデルにしていて、やはり一業種一社。コンビニはローソン、ガソリンスタンドは昭和シェル石油、レンタル店はゲオ、ファストフードならケンタッキーフライドチキン、飲食店なら大戸屋というかたちで広がったんです」(同)
Pontaの会員数も6000万人を突破しており、存在感を示している。
「2014年から始まった楽天ポイントカードは、3番手。主なところはTポイントとPontaに押さえられているから、営業担当者は苦労したんですよ。大丸や松坂屋、出光、マクドナルド、ミスタードーナツなどを取っていって、サークルKサンクスを取って、さあこれから伸ばしていこうという時に、サークルKサンクスはファミマに吸収合併されてしまった。一番大事な消費者の接点が、Tポイントにさらって行かれちゃったわけです。これはもうダメだって、皆思ったわけですよ。だけど今、QR決済の楽天ペイがTポイントを脅かそうとしてるんですから、ビジネス界の栄枯盛衰はすごいものですよね」(同)
注目浴びるPayPay
QR決済に代表されるキャッシュレス化は、時代の趨勢だ。消費者にとっては持ち歩く現金が少なくてすみ、支払いの手間も少なくなる。コンビニなどで見られる昼時の行列もなくなり、人件費の削減にもつながるだろう。都市であれば、いたるところにATMがあるが、今ほどの数は必要なくなり、それらの維持費などがいらなくなり社会的コストも浮く。携帯電話が普及して街から電話ボックスが消えていったように、ATMも消えていくかもしれない。
この流れのなかで、一業種一社という縛りは必要なくなる。楽天ペイはコンビニなら、ファミマ、ローソン、ミニストップで使える。これでポイントが付加されるということになれば、消費者にとってはファミマでしか使えないTポイントはありがたみがない。
「楽天は、仙台の『楽天生命パーク宮城』、神戸の『ノエビアスタジアム神戸』で、今年の開幕戦から完全キャッシュレス化します。入場チケットはもちろん、グッズ販売や観戦中に売り子から飲食物を買ったりするのもすべてキャッシュレス。楽天ペイだけでなく、電子マネーの楽天Edy、各種のクレジットカードも使えますが、現金は使えなくなります」
他の先進国と比べても現金支払いが根強い日本だが、その快適さを味わってもらい、キャッシュレス化を進めていこうという試みだろう。
QR決済のなかで注目を集めているのは、昨年、還元率20%というキャンペーンを行った、PayPayである。
「PayPayが他のQR決済と違うのは、ユーザースキャンを強く推していることです。PayPayのアプリを入れたスマホで、お客のほうが店にあるQRコードを読み取るんです。そうすると、スマホの画面にテンキーが出てくるので、お客が会計金額を打ち込む。それを見て、お店の人が金額を確認して、ポーンと決済ボタンを押せば支払いが完了します。お店にしたら、QRコードさえあればいいから導入コストはきわめて小さいわけです。ラーメン屋やちょっとした飲み屋、あるいは屋台みたいなところでも導入できるでしょう」
PayPayは、ソフトバンクとヤフーによって設立されたが、この2社はTポイント・ジャパンの出資者でもある。PayPay設立の記者会見の際に、「Tポイントのほうはどうなるのか?」という質問には、「今回は私たちだけで」などとはぐらかしたという。時代の潮目を見て、TポイントからPayPayへと乗り換えていく戦略とも見て取れる。大手コンビニでPayPayが使えるのは、ファミマだけだったが、今はローソンでも使える。
警察への情報提供発覚も痛手に
ファミマがTポイントとの独占契約をやめた理由は、QR決済の台頭だけではない。Tポイントで得られた顧客の属性や利用履歴などのデータは、TSUTAYAとTポイントを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に集積される。データはファミマも利用できるが、主導権はCCCにあり利用料を払う必要もある。集積された情報をデータベース化し商品開発等のために提携先に販売する事業が、Tポイントのビジネスの主軸だ。
「ファミマとしてみれば、商品を売っているのは自分たちなのに、それがほかで利用されるというのは、情報が吸われちゃう感覚なんじゃないですか。ファミマとしては、自分たちでやろうということで、ファミマペイというのを考えています」
今年の7月から全国のファミマに導入されるファミマペイは、PayPayなどと似た仕組みだ。店頭のレジでチャージすることもできる。
「Tポイントは、裁判所の令状なしに会員の情報を警察に提供していたことが判明しましたが、ああいうことがあるとイメージ悪いですよね。警察に情報提供することもあるということを、会員規約に明記するっていうことですけど、今のご時世、それで利用者は納得するんでしょうか。
Facebookユーザーのデータがコンサルティング会社に不正利用されていたということがありましたけど、EUではそうしたことを規制するためにGDPRという法律ができました。GDPRは『General Data Protection Regulation』の略で、一般データ保護規則という意味です。同じような規制は、日本でも検討されています。昔と比べて個人情報の扱いに敏感になっている今、顧客のデータを売るというビジネス自体が時代に逆行している気がします」
共通ポイントでは最強だったTポイントが今、崖っぷちに立たされている。QRコード決済は、楽天ペイ、d払い、Pay Pay、LINEPay、ゆうちょPay、Amazon Pay、auPayなどがあり、さらにファミマペイが加わる。乱立状態だ。昨年のPayPayのキャンペーンに対抗するように、LINEPayは1月、20%還元のキャンペーンを行った。それに対して、PayPayは2月12日から20%還元キャンペーンの第2弾を展開するという。中核事業の収益を原資にしてポイントをばらまくという、激しい利用者争奪戦が展開されている。いったい誰が勝者となり、それがいつまで続くのだろうか。
(文=深笛義也/ライター)