東京五輪・パラリンピックの選手村と主要な競技会場を結ぶ都道環状2号線は五輪ロードと呼ばれる。五輪ロードでは五輪後、コロナ後をにらみながら都市開発が進んだ。マンションの建築も加速した。
三方を海に囲まれた東京・晴海に広がるエリアで、東京都が開発しているのが晴海フラッグだ。一部を選手村として活用し、環境先進都市のモデルの実現に向け整備を進めてきた。三井不動産レジデンシャルなど民間の11社が開発を担う。
五輪後、一部解体工事と新築工事を再開し、2023年には分譲2690戸と賃貸住宅の入居が始まる。24年春にはエリアのシンボルとなる50階建てのタワー2棟が完成し、全24棟、5632戸(分譲4145戸、賃貸1487戸)に約1万2000人が暮らす新しい街が誕生する予定だ。
三井不動産レジデンシャルは選手村のあった晴海に隣接する勝どきエリア、勝どき東地区で再開発を進めている。都営地下鉄大江戸線、勝どき駅に直結する一等地に3棟のタワーマンションを建てる。地上58階建ての超高層マンション、パークタワー勝どきサウス(1665戸)の販売が始まった。地上29階建てのB棟(464戸)と合わせて最終的に3250戸を供給することになる。このうち1072戸を先行して発売した。21年秋に販売を開始した地上45階建てのタワーマンション、パークタワー勝どきミッド(1121戸)は3億円超の物件を含め第一次分譲分の507戸すべてが契約済みとなった。いずれも23年8月下旬に竣工の予定で24年4月下旬に入居する。三井不動産レジデンシャルの22年3月期には、価格が1億円以上の“億ション”の販売が1000戸を超える見通しだという。
三井不動産レジデンシャルは2億円超の物件も好調で、1億円が高級物件の目安でなくなってきたと超強気だ。不動産経済研究所によると21年の首都圏新築マンションの発売戸数は前年比23.5%増の3万3636戸。3年ぶりに前年実績を上回った。平均価格は前年に比べて2.9%上昇し、6600万円とバブル期を超え過去最高を更新した。東京23区は7.5%高くなり、8293万円と30年ぶりに8000万円の大台を突破した。価格上昇を牽引したのは、港区や千代田区など都心部の高額物件だ。発売戸数に占める1億円以上の割合は8.2%と最高水準になったと不動産経済研究所は分析している。
21年の実績を見ておこう。三井不動産レジデンシャルが売り出したパークコート千代田四番町などが富裕層の人気を集めた。高級住宅街である千代田区四番町の敷地面積4589平方メートルに、全168戸の大規模レジデンスが建てられた。第一次分譲の販売価格が8000万円~7億5000万円で平均価格が1戸2億円以上となった。販売開始からわずか3カ月という、高額物件としては超スピードで完売した。
高額マンションに対する人気は今年に入っても続いている。不動産経済研究所によると2月の首都圏新築マンションの販売価格は、平均で7418万円。前年同月比で1038万円(16.3%増)上昇した。2月としては過去最高。東京23区を中心に20階建て以上の超高層マンションの販売が増えたという。
2月の東京23区の平均価格は前年同月比30.3%増の9685万円と大きく上昇した。平均価格1億円超の三井不動産レジデンシャルの超高層マンション、パークタワー勝どきサウスは2月発売分157戸が即日完売となるなど絶好調だった。
経営者や起業家が節税目的で億ションを購入
東京五輪後は、「高級タワマンブームは終わり、価格は暴落する」(不動産担当のアナリスト)との見方が多かった。だが、そうはならなかった。新型コロナ禍の最中に億ション人気が高まり、マンション価格の上昇に拍車がかかった。
「億ションの購入者は、湾岸のタワマンブームの頃のように転売目的の投資家ではない。富裕層がセカンドライフ目的で購入している。新型コロナの感染拡大で、経済は大きなダメージを受けたが、足元の株価は高値を維持し、資産家の財布は傷んではいない」(前出のアナリスト)
15年の相続税法改正が富裕層を億ション買いに向かわせたとの指摘もある。現金ではなく不動産で資産を所有するケースが増加したという。不動産投資で相続税の負担が軽減されるだけでなく、家賃収入を得ることもできる。節税目的だけでなく老後の安定収入源の確保のためにマンションを購入することが行われている。
相続税対策としてマンションの需要が増えれば、自然の成り行きでマンションの価格は上昇する。「億ションの購入者は株高の恩恵を受けた経営者や起業家」(前出のアナリスト)。
国税当局は課税を強化する動きを見せている。不動産投資による節税を抑えるためのきめ細かい対策が取られ、大規模な税制改革が行われれば、空前の億ションブームは終焉を迎えるが、「この間にひと稼ぎ」と考える資産家は減りそうにない。
(文=Business Journal編集部)