上場企業が株主に自社製品や買い物券などを提供する株主優待制度を拡充している。8月4日付日本経済新聞夕刊によると、7月末時点の導入社数は、過去最高の1148社に上るという。記事によると、今年からNISA(少額投資非課税制度)が導入されたことで今後増えると期待される個人投資家を、株主として取り込もうとする意図が上場企業側にはあるようだ。
マネー誌でも株主優待は定番の特集テーマだ。各誌で毎年1度は株主優待をメイン特集に据えた号が発刊される。近年では、株主優待品でほとんどの生活ニーズを満たしている元将棋プロ棋士の桐谷広人七段が「ミスター優待」的な位置づけで人気者となり、方々に紹介されている。筆者は将棋ファンだ。直接お目に掛かったことはないが桐谷七段は故升田幸三名人門下のユニークな棋士でもあり、彼が脚光を浴びることは嬉しく思うのだが、他方で、株主優待を理由にした株式投資を無批判に持て囃す世間の風潮については苦々しく思っている。
上場企業は、少しでも効率よく利益を上げて、これを配当するなり再投資するなりして、本業で株主に報いるべきだと思う。優待品で個人株主を釣るのは、いささか邪道だ。機関投資家、さらには近年増えている外国人投資家から見ると、株主優待は扱いが厄介な代物だ。かつては、投資信託を運用する会社や、その運用資産を預かる信託銀行などで、ファンドが投資した日本航空や全日空の株主優待券を使って社員の出張旅費を賄うような「いい加減」が許された時代があった。現在では、現金化できる優待物は金券ショップなどに持ち込んで換金して、ファンドの資産に繰り入れる必要がある。もともと、投資家のものなのだから当然の話だが、これは面倒だ。
さらに外国にいる投資家などにとっては、日本国内でしか使えない株主優待が付いていて、これに会社がコストを掛けているとすると、株主優待はアンフェアで無駄な行為となる。
もちろん、すべての株主優待に目くじらを立てる必要はないし、あるいはプラスの面があると考えられるケースもある。例えば、自社商品の商品券を配る優待が、純粋に自社商品のマーケティングとして費用と効果を考えた時にペイするなら、その優待品を使えない株主から見ても、文句の余地はない。多くの会社が行う、自社商品購入の割引券を配る優待の場合、割引券で売り上げが純増するなら、この範疇で優待が正当化され得る可能性はある。
しかし、既存の需要に割引券が充当されたり、自社商品とはまったく関係のない旅行券やコンサート・チケット、あるいは地方の特産品のようなものを配る場合(抽選で配る場合もある)、一部の株主から見て、無駄なコストを特定の株主のために掛けていることになるだろう。
●投資に対する判断が甘くなる要因にも
さらに筆者がより問題だと感じるのは、投資家の側の考え方に対してだ。