高度経済成長期に一生懸命働き、資産を蓄えた団塊の世代が、今年から来年にかけてほとんど定年退職する。定年を機に、保有する資産を愛する家族に残し、争いが起きないように分け与えたいと考える人は多いだろう。
そこで、自らの終末期をデザインする活動「終活」が活気を帯びている。秘かに遺言書を書いている人も多いようだが、2007年に信託法が新しく施行されたことで、信託も注目を集めるようになった。
今回は、意外と知られていない信託について掘り下げてみたい。
●遺言や成年後見制度の不備
相続対策をするには、被相続人の意思能力が必要不可欠だ。認知症になってからでは、遺言書を作成することも、資産を子どもに分配することもできず、当然ながら銀行から借り入れもできないため、不動産を有効活用するようなことも不可能となる。
認知症になったら成年後見制度を利用すればよい、と考える人もいるかもしれないが、成年後見は被後見人の財産を守ることが目的であり、相続対策として資産を活用することは原則としてできない。また、なによりも後見人となる家族などは、定期的に裁判所へ書類を提出しなくてはならないなど、大変な苦労を背負うことになる。
自筆で遺言を作成してみても、厳格な書式が法律で定められているため、一部でも不備があると遺言書全体が無効となることもある。または、その遺言の内容によっては、かえって相続人間に争いが起こることも珍しくない。
そこで、信託を活用することで相続対策を確実に実行できるように備える人が増えているのである。
●信託とは
信託とは、資産の所有者(委託者)が第三者(受託者)に財産を託して運用を依頼し、特定の誰か(受益者)にその利益を与える制度である。当然、遺言と同様に委託者自身の意思能力がなければならないため、認知症になってからは利用することはできないが、第三者に運用を委託し、さらに自分の老後や死後の財産活用についても任せられるため、あまり抵抗感を抱くことなく利用する人が多いようだ。
現在の信託法では、個人に委託することもできるため、弁護士や司法書士などが信託を請け負うケースも増えている。そこで、信託銀行などの金融機関に委託する場合と、個人に委託する場合を比べてみよう。