環境意識の高まりを受け、長らく政府はレジ袋有料化を検討してきたが、小売店・流通関連事業者の反対は根強く、なかなか道筋はつけられなかった。しかし、環境省などを先頭に経済産業省なども同調し、ついに実現。7月1日からスタートする。小売店各社はレジ袋の有料化に反対を表明する一方、トレンドを察知して新年度が始まる4月1日から有料化へと切り替えた小売店も多く見られる。
レジ袋有料化は環境意識を高めることが狙いだが、それは消費者に負担を求めることにもつながる。そのため、プラスチック製ではなく環境に優しい植物由来成分を配合したレジ袋を用意し、有料化しない方針を貫く小売店もある。
社会全体がレジ袋削減へとひた走るなか、ここにきてレジ袋が見直される空気が漂い始めている。そのきっかけとなったのが、世界を震撼させている新型コロナウイルスの感染拡大だ。それまで経済成長を優先し、衛生環境を整えることを後回しにしてきた新興国は、新型コロナ拡大から次々と衛生環境を向上させる政策を打ち出している。
また、マスクが世界各国で必須アイテムとなり、すでに奪い合いも起き価格は高騰している。そのため、稼働率の悪い工場をマスク製造工場へと転換する動きも各国で見られる。さらに公共施設や大規模商業施設の入り口などに置かれているアルコール消毒液なども世界各国で導入が進む。それまで「清潔すぎる」と見られていた日本の衛生概念は、新型コロナ感染拡大によってスタンダードになっているのだ。
衛生意識の高まりは、レジ袋からマイバッグへ切り替えるという潮流を大きく変えている。マイバッグは繰り返し使用するために不衛生とされる。1度使用するたびにマイバッグは洗う人は少ないだろう。食料品とその他の雑貨類でマイバッグを使い分ける人は少なく、マイバッグは不衛生なアイテムとされつつあるのだ。ある小売店関係者は言う。
「スーパーなどで販売している生肉や鮮魚などは、一般的に発泡スチロールのトレーに盛られて販売されています。しかし、トレーを捨てるのが面倒くさいというお客様も多くいます。スーパーではリサイクルの観点からトレーの回収箱を設置しています。この回収箱はあくまで使用した後に水洗いなどをしたトレーを家庭から持ち込んでもらうために設置されています。
ところが、会計直後に購入した肉・魚を持参したラップで包み、その場で不要になったトレーを回収箱へと廃棄していくお客様が増えています。持ち帰るのが面倒だからという理由からだと思いますが、お客様の再ラップは簡易なものです。そのため、肉・魚の汁がエコバッグ内で漏れてしまうことは珍しくありません。しかし、汁が漏れてもマイバッグを洗濯する人は多くないでしょう。衛生の観点から見れば、マイバッグはかなり不衛生なものだと思われます」
ゴミ袋などへの再利用
マイバッグ持参が促進されている現在、不潔なマイバッグから新たな疫病が蔓延する可能性は否定できない。環境意識を高めるために導入が促進されたマイバッグが人類を危機に陥れるような事態が発生すれば、本末転倒といわざるを得ない。
環境問題からマイバッグの利用が推奨されるようになったが、昨今は技術革新が進んでいるために、一律にレジ袋が非エコともいえなくなっている。レジ袋を一律に廃止するよりも、エコなレジ袋を開発し、ゴミ袋などに再利用を促すほうが得策という指摘もある。ある地方自治体関係者は言う。
「環境問題では厳しい逆風にさらされているレジ袋ですが、一部の自治体は条件を満たしたレジ袋ならば自治体指定のゴミ袋として使用することを認めています。どんなに削減に努めても、レジ袋が社会から消えることは現実的ではありません。それなら、環境に負担をかけないようなエコなレジ袋を開発する、そして使い捨てにしないという考え方が出てきてもいいでしょう。レジ袋有料化は政府の方針ですし、それ自体に文句をつけるつもりはありませんが、レジ袋が諸悪の根源という考え方ではなく、もっとスマートなやり方があるとも思っています」
レジ袋有料化は7月1日なので、現時点で有料化が覆ることはないだろう。有料化を目の前にして、衛生的なレジ袋が再評価される。なんとも皮肉な状況が発生している。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)