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東京湾の領土争い激化、大田区が江東区を提訴も

文=小川裕夫/フリーランスライター
東京湾の領土争い激化、大田区が江東区を提訴もの画像1「Thinkstock」より

 10月16日、東京都は中央防波堤の帰属問題について調停案を提示した。中央防波堤とは、お台場の南側に造成されている埋立地のことで、同地は現在まで住所が確定していない。暫定的に「江東区青海地先」とされているが、江東区の土地ではない。そのため、東京都環境局の庁舎が立つほかは、茫洋とした海の森が造成されているぐらいだった。帰属が決まっていないことから、中央防波堤の開発はいっこうに進まない。著しく発展する東京湾岸部とは対照的に、開発から取り残されていた。

 かつてはフジテレビが立地する港区台場一帯も、13号地と呼ばれる埋立地だった。今や商業施設が立ち並び、平日・休日問わず多くの人出でにぎわうお台場一帯も、昭和50年代まではその帰属をめぐって自治体間で激しく領土争いが起きていた。

 当時の13号地はまったくの荒野だったため、今のような繁栄を想像することは難しかった。自分の土地にすれば、道路や街の美化・緑化といった管理の手間がかかる。自治体にとって、13号地は財政を浪費するだけの土地との認識が強く、引き取り手はなかった。押し付け合いの末、13号地は品川区・港区・江東区に3分割されることで決着する。

 大田区と江東区で帰属が争われた中央防波堤は、13号地とは事情が異なる。東京都の職員は言う。

「13号地が商業的に発展したこともあり、中央防波堤は大田区・江東区のほか中央区・品川区・港区の計5区が帰属を主張しました。そのうち、中央区・港区・品川区は地続きではないことから撤退。残った大田区と江東区は、頑として主張を曲げなかったのです」

 こうして、大田区vs.江東区の長きにわたるガチンコバトルへと発展した。

東京五輪

 中央防波堤の面積は、509ヘクタール。東京ドーム換算で約106個分に相当する。都心にも近い広大な土地を、みすみす手放すわけにはいかない。

 そしてここにきて、急に中央防波堤の帰属問題が慌ただしくなった。なぜなら、中央防波堤が東京五輪会場として開発されるからだ。五輪が自区で開催されれば、区民のみならず全世界にPRができる。街のブランドイメージも向上するだろう。大田区と江東区が頑として譲らない背景にはそんな思惑が絡んでいる。

 ただし、帰属が大田区になろうと江東区になろうと、中央防波堤の土地所有権は東京都にある。だから、どちらの区になっても、区の裁量で自由に開発することはできない。また、東京23区は都区財政調整という制度的な縛りがある。この制度のために、本来なら基礎的自治体が手にする固定資産税などの莫大な税収も東京都の財源になる。つまり、中央防波堤が大発展を遂げても、両区に財源的なプラスはそれほどないのだ。

 それでも、両者は主張を譲らない。解決の糸口が見えないまま、両者は東京都庁内に設置された東京都自治紛争処理委員に解決を委ねることにした。

 自治紛争処理委員は中央防波堤のうち、86.2パーセントを江東区に、13.8パーセントを大田区に帰属させるとの調停案を提示した。東京都が提示した調停案は、実質的に江東区の勝利と言っていい内容だった。

新海面処分場

 当然ながら、大田区はこの調停案に納得せず、江東区を提訴してまで争う構えを見せている。しかし、中央防波堤にアクセスする公共交通は、東京テレポート駅前から発着している都営バス「波01」だけしかない。大田区と中央防波堤とは海底トンネルで結ばれているものの、大田区側から中央防波堤に行くことは困難だ。

 また、これまでも中央防波堤での事務処理は、暫定的に江東区が担当していた。そうした面を踏まえると、中央防波堤の帰属問題は江東区側に理があると関係者間では以前から根強く囁かれていた。

 大田区側も帰属問題では分が悪いことは薄々気づいているフシがあった。問題の本質は、「江東区8割:大田区2割」という割合の問題ではないようなのだ。

「今回の調停案で示されたのは、あくまでも中央防波堤の帰属にすぎません。東京都は中央防波堤のさらに南側に、新しい埋立地を造成しています。これは新海面処分場と呼ばれる埋立地ですが、その面積は約480ヘクタールとされています。中央防波堤に匹敵する広大な土地の帰属が、未定のままになっているのです。新海面処分場の帰属問題も、これから争われることになるでしょう」(同)

 つまり、新たに生じる新海面処分場の帰属問題に先手を打つため、大田区は中央防波堤について「どれだけ取るか」より「どう線引きされるのか」を重要視しているようなのだ。

 今回、東京都の自治紛争処理委員が示した中央防波堤の線引きを見ると、この後に浮上する新海面処分場の帰属問題でも江東区が有利のように見える。大田区がこの線引きを容認したら、中央防波堤の多くを江東区に取られてしまうだけではない。新海面処分場側も大きく奪われることになるのだ。

 大田区が今後の帰属問題を優位に進めるためには、江東区と新海面処分場とが接しないことが望ましい。水面下では、江東区が新海面処分場に接しないような線引きにしよう、という駆け引きが行われているともされる。

 東京都自治紛争処理委員の協議内容は非公開とされているので、何を話し合ったのかが外部からはわからない。それが、かえって憶測を呼ぶ原因にもなっている。

 東京湾の埋立地問題は、火種を残したまま東京五輪を迎えることになるだろう。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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