東京オリンピック(五輪)開会式(23日)を直前に控えた21日、全競技の開幕戦としてソフトボール日本代表・オーストラリア代表戦が福島市の「福島県営あづま球場」で行われ、日本が8対1で5回コールド勝ちした。先発の上野由岐子(ビックカメラ高崎)の好投[サ1] に続き、後藤希友(トヨタ自動車)に継投。4番・山本優(ビックカメラ高崎)、藤田倭(同)らの打線が両投手の好プレーに応えた。
五輪日本代表の初白星に国内のスポーツファンが盛り上がる一方、会場となった県営あづま球場周辺に配置されていた福島県警関係者はげっそりしたように次のように語った。
「本当にクマが出なくてよかった。我々の警備が、日本代表の初勝利に貢献できたと思い、心底ほっとしています」
いったいどういうことなのか?
福島市内の熊出没のメッカ「あづま球場」
福島県警の発表によると、20日午前7時半ごろ、あづま球場のある「あづま総合運動公園・福島市民家園」付近で、男性警備員が体長約1メートルのツキノワグマとみられるクマを目撃し、県警福島署に通報した。県警は事態を深刻視し、翌日に控えたソフトボール競技の安全開催に向けて、会場警備を担当していた県警本部職員、福島署員らを総動員して深夜まで捜索が行われていたのだという。地元紙記者は話す。
「あづま球場のある総合運動公園は、福島市街地から遠く市内のクマ出没のメッカのひとつです。交通の便もよくなく、自家用車が必須です。県庁職員が朝、ジョギングに行くので、人通りがまったくないとは言いませんが、基本的には自然豊かな静かなところです。
福島市内の報道各社には、県警からクマが出没するたびに広報文がファクス送付されてくるのですが、(冬眠明け)シーズンになると相当な頻度で発見情報が寄せられます。五輪は無観客になってしまったので、『これじゃ、試合を見られるのはクマぐらいのものだろう』などと記者の間でジョークを言い合っていたのが現実になるとは……。
クマは基本的に人の話し声や音楽を嫌がる習性があり、無観客試合になっていなければ、こんな事態にならなかったのもかもしれません」
あづま総合運動公園は吾妻山のふもとに立地し、JR福島駅から西南西約8.6キロの位置にある。周囲には田畑が広がる。地元市議は次のように語る。
「球場のある地域は自民党の佐藤正久参議院議員(比例区)の出生地であり、地盤として知られています。安倍晋三前首相と佐藤議員が懇意なことは、言うまでもありません。ほとんど人通りもないのに、衆議院選や参院選で安倍氏演説した場所として知られていますよ。安倍氏が演説した時には、市内から大量の党員がバスを仕立てて聞きに行くという、動員のお手本のような光景でしたね。
安倍氏が掲げていた復興五輪の象徴の一つして、県も積極的に五輪を誘致したのですが、会場をどこにするのかについては、郡山市やいわき市など当初はいろいろな議論がありました。あづま球場になったのには、少なからず安倍氏や佐藤議員による働きかけがあったとも言われています。復興五輪を通じて、国内外の人に”福島の今”を肌で感じてもらう』という趣旨だったのに、いざ箱を開けたら現地で観戦しているのは地元のクマだけというのは、今さらですがやるせないですね」
いろいろな意味で想定外の五輪は、今日、始まったばかりだ。
(文=編集部)