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神樹兵輔「『縮小ニッポン国』のサバイバル突破思考!」

浮気相手の特定、身元調査…探偵業はなぜ“許される”?驚愕の手法、はびこる内部協力者(前編)

文=神樹兵輔/マネーコンサルタント
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浮気相手の特定、身元調査…探偵業はなぜ“許される”?驚愕の手法、はびこる内部協力者(前編)の画像1内閣官房HPより

「うるわしき誤解」と「錯覚」

 個人情報保護法は、今年で完全施行10年目を迎えます。国会ではビッグデータ時代を見据え、「個人情報の定義の明確化、保護の強化」「匿名加工情報の制度化」「半年間で5000件以下の個人情報取扱事業者に該当しない小規模業者の取り扱い」などの改正案が審議され、6月にも成立の見込みです。また、同時に来年1月から施行されるマイナンバー法において、一元管理される個人情報に「預金口座」や「医療情報」などを追加する改正案も審議中で、こちらもまもなく成立の見通しです。

 近年、情報技術の飛躍的な進化により、容易にさまざまな情報収集やその活用ができるようになってきました。とりわけ個人情報の取り扱いとその有用性は、うまく共存させてコントロールすることが求められています。

 ところで、「個人情報」や「個人情報保護法」という言葉は、日常生活では「うるわしき誤解」と「錯覚」が入り混じる、奇妙な言葉にさえなっています。「私の個人情報をよくも世間にさらしたな、個人情報保護法で訴えるぞ!」とか、「どうして私の知られたくない情報を探ろうとしているんだ。それは個人情報保護法違反だぞ!」などと極めて敏感に反応する人がいて、どうも「個人情報保護法」と「プライバシー侵害(刑法上の名誉棄損、侮辱、民法上の不法行為)」が混同されている場合もあります。

 半面、SNS上で自分の生年月日、住所、氏名、写真などを平気でさらす人も多く、個人情報が独り歩きすることに極めて鈍感なケースも見受けられます。

 個人情報や個人情報保護法という言葉が、「何かあっても法律で守られているから安心」という過剰な期待を人々に与えているのではないでしょうか。

 しかし、そもそも個人情報保護法は大量の個人情報を取り扱う事業者が規制の対象です。例えば、ベネッセホールディングスによる顧客情報漏えいなどを規制の対象とします。つまり、本来は個人対個人の関係性には直接及ばないのが個人情報保護法なのです。

「探偵調査業務」は、なぜ許される?

 ところで、世の中には「探偵調査」「興信所」という業種が存在を許されています。浮気調査、素行調査、身元調査、信用調査、家出人捜索、イジメ調査、ストーカー調査など、世間では何かに困った時に使うというイメージの商売です。便利屋商売の中にも、儲かる仕事なので、こうした業務を取り入れるところがあります。

 この商売は、世間が個人情報の取り扱いに過敏になるほど繁盛するといわれています。素人が他人の個人情報を入手するのが難しくなるからです。もっとも、探偵業者は半年間に5000件以上もの個人情報を取り扱いませんから、厳密な意味での個人情報取扱事業者ではありません。ただし、法の整合性が問われるため、個人情報保護法やその施行法が規定する内容を無視するわけにもいかないのです。

 個人情報保護法が規定するものに、「個人情報の利用目的通知」があります。「このたびの個人情報の収集にあたっては、こういう目的のみに限定して使います」といったおなじみの文言がそれに該当します。

 しかし、探偵業者が客から特定人物の調査を依頼され、「○○様から依頼を受けたので、これからあなたの身辺・経歴を調査しますのでご了承ください」などと調査対象者に通知して同意を得るわけにはいきません。そこで警察庁生活安全局は、2005年4月に個人情報保護法が完全施行される直前の同年2月の段階で、「興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置の特例に関する指針」を定め、探偵業者の救済を図りました。以下が個人情報保護法第18条の「利用目的通知」を除外する特例の要約です。

・「対象者が依頼者の配偶者(婚姻の届け出のない事実婚を含む)で、民法752条の義務その他法令上の義務の履行確保に必要な調査の時」
→「浮気調査」が可能

・「対象者が依頼者の親権に服する子で、民法820条の権利その他法令上の権利、義務の履行に必要な調査の時」
→「家出人捜索」「イジメ調査」が可能

・「対象者が依頼者の法律行為の相手方で、法律行為の判断に必要な調査の時」
→「素行調査」「結婚調査」「身元調査」「経歴調査」「信用調査」「家出人捜索」など、大方の調査が可能

・「依頼者が犯罪その他不正な行為の被害を受け、被害防止に必要な調査の時」
→「ストーカー調査」「素行調査」「犯罪調査」が可能

 つまり、晴れて警察庁のお墨付きを得て、従来通りの探偵調査のすべての業務が個人情報保護法の利用目的通知の規制にかかわりなく行えるようになったのです。

「行動調査」は儲かる仕事

 探偵調査業務で一番儲かるのが、「行動調査」と呼ばれる「尾行・張り込み」の業務です。徒歩による尾行・張り込みなら、通常2名1組で状況をカメラやビデオで随時撮影しながら行動をチェックし、メモをまとめて報告書を作成しますが、1時間1~2万円と高額です。しかも、浮気の尾行の場合などでは、調査対象者が浮気相手とホテルに入れば出てくるまで張り込み、浮気をせずに会社で残業をしている場合でも張り込みますから、時間料金は高額になっていきます。
 
 裁判離婚の際、配偶者や浮気相手から慰謝料を取るためには、不貞の動かぬ証拠が必要です。おまけに、家庭裁判所は1回だけの不貞行為では浮気と認めてくれなかったりするので、継続的な男女関係の「証拠」を取る必要があります。

 かくして、「行動調査」では、数十万円の費用が飛んでいきます。通常相場の100~200万円程度の慰謝料をもらったところで、調査費用で足が出たというケースもザラにあるゆえんなのです。

 こうした「行動調査」は、比較的、法律を犯すことなく、肉体労働で高額が稼げます。しかし、浮気相手を確認し、その人物を特定する段階になると、今度は「内偵調査」が欠かせなくなり、法律順守がどこまでできるか怪しくなります。「内偵調査」では、人物の属性その他を調べるために、「聞き込み」や「公簿記録入手」などで、法律に抵触する調査手段がいろいろと出てくるところに問題があるわけです。

 例えば、浮気相手の住民票や戸籍謄本、戸籍の附票(住所地の変遷記録)や除籍謄本(本籍地変更で離婚歴、養子縁組などの記載が消滅するので、結婚詐欺師は本籍地をよく変え、編製年が新しい)などが取れなければ、相手を特定したことにはなりません。現在、こうした他人の公簿書類を赤の他人が取ることはできなくなっていますが、調査業者は法を犯さずにどうやって取得しているのでしょうか。

 戸籍は本人を仮装して郵送で取るといった業者も過去にはいたようですが、現在は成りすましも難しくなったこと、簡便といわれる少額訴訟を提起してまで公簿を取得するのも面倒といった事情から、職務上の必要があれば他人の公簿書類が取れる資格8士業(弁護士、司法書士、税理士、土地家屋調査士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士)が「職務上の必要性」を偽装して関わっているとみるのが妥当です。あきれた話ですが、現実にある事例です。

 とりわけ、取得が最も容易といわれる行政書士資格で、これまで不正取得し摘発された事例が多いのです。

「内偵調査」は法律違反のオンパレード?

 こうした「内偵調査」は、探偵調査業務では不可欠の要素であり、内容は多岐にわたります。浮気相手の勤務先ぐらいなら尾行で洗い出しも可能でしょうが、「聞き込み」でいろいろ調べなければならない時は、さまざまな業者に化け、時には公務員に成りすまして電話をかけたり(軽犯罪法違反)、近隣訪問もしなくてはなりません。さらに、特定人物の携帯番号、メールアドレス、陸運局照会ではわからない軽自動車の所有者割り出し、銀行口座やその残高、金融機関の借り入れ履歴やその残高、暴力団との関係、前科、逮捕歴など、警察情報までも割り出すという段階になると、その調査は、法令順守ではとても実現不可能です。

 もちろん現在は06年6月施行の「探偵業の業務の適正化に関する法律」に基づき、どの探偵調査業者も正式に都道府県公安委員会に届け出ることが義務化され、順守義務も明文化されています。同法では、過去のこの業界におけるありとあらゆる無法の歴史的背景を鑑みるかたちで、禁錮以上の刑を受け5年を経過しない者や、暴力団員および暴力団員でなくなってから5年を経過しない者は業務に従事できないとか、警察官の立ち入り調査権、差別的調査の禁止、秘密保持義務、調査データの守秘義務、個人情報保護法および他の法律の厳格な規制を受けること、契約時における依頼内容や料金などの書面交付義務、重要事項の説明、罰則の適用などと厳しい規制が定められています。

 しかし、探偵業者に調査の依頼をする客も、高額な料金に見合ったしかるべき成果を求めるため、「魚心あれば、水心」といえるのではないでしょうか。

 ちなみに、タウンページの電話帳にひとたび「探偵事務所」の番号を掲載しただけで、「調査屋・データ屋」と称する裏稼業の商売人がたちまち営業アプローチをかけてくるのが常です。この調査屋・データ屋と称する業者は、ありとあらゆる公共団体や電話会社などの内部協力者と通じているのが売りになっています。つまりは、探偵調査業者が客から依頼を受けた調査業務を請け負ってくれる業者というわけなのです。そうした調査屋・データ屋が情報漏えいに協力してくれる組織の内部協力者を確保していれば、探偵業者は簡単に情報を入手できます。

 では次回は、具体的な情報漏えいの実態、そしてマイナンバー制の危険性についてみていきたいと思います。
(文=神樹兵輔/マネーコンサルタント)

※後編へ続く

神樹兵輔/マネーコンサルタント

神樹兵輔/マネーコンサルタント

投資コンサルタント&エコノミスト。 富裕層向けに「海外投資・懇話会」主宰、金融・為替・不動産投資情報を提供している

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