まだまだ改善の余地はあれど、少なくとも意識において「男女平等」は日本の社会に徐々に根付き始めているといえる。ただ、その一方で「男らしさ」「女らしさ」という価値観がなくなったわけではなく、それらによって苦しむ人が依然多いのも事実だ。
『男性漂流 男たちは何におびえているか』(奥田祥子/著、講談社/刊)はそのなかでも「中年男性」を題材に、「結婚」「仕事」「介護」など人生のさまざまな場面で直面する彼らの苦難を描いている。
■中年男性に迫る結婚のプレッシャー
「結婚」がデリケートな話題だというのは男性も女性も同じ。それが中年男性ともなればなおさらだ。
著者の奥田さんが取材した一人、津村勇太郎さん(42歳・仮名)は私立難関大学を卒業後、商社に入り30代後半で課長に。年収は1000万以上で、外見もよくファッションセンスも悪くない。
これだけ女性にとって魅力的な要素が揃っていてなぜ独身なのかと不思議なほどだが、本人は「結婚『できない』んじゃなくて、今のところいい女がいなくて、たまたま結婚『してない』だけ」と、語ったそうだ。
その3年後、改めて取材を申し込んだ奥田さんに、津村さんは結婚情報サービスに入会したことを明かしたが、その時も「出会いの場を広げただけ」と、女性に困ったから入会したわけではないことを強調した。しかし、かつての津村さんは「合コンやパーティに出かけていっては、女性が声をかけてくれるのを待つ」スタイルだったため、少なくとも自分から相手を探し始めたわけだ。
しかし、津村さんはそこでも相手を見つけることができなかった。時は2008年。ちょうど「婚活」という言葉が世の中に出回りはじめた時期で、女性から男性にアプローチすることも増えていた。しかし、見合いを申し込んできた女性と会ってみてもどこか気に入らないところがあり、交際にまで結びつかなかったという。それでは、と自分から気に入った相手に見合いを申し込んでみてもうまくはいかず、ついには結婚情報サービス側とトラブルまで起こしてしまった。
このような「結婚したいのにできない」中年男性は少なくない。奥田さんは本書の中でそういった男性の例をいくつも取り上げているが、一見して思うのは皆相手の女性のネガティブな面を見つけては、「この人ではない」と判断することを繰り返し、いつまでたっても交際に発展しないということだ。こうした男性の傾向の原因として、奥田さんは動機の不純さを挙げている。
前述の津村さんにしても、結婚相手を探す動機は「独身だと周りから変な目で見られて男としてのプライドを保てない」というものだった。そして、奥田さんが取材した別の男性らの動機も「会社で独身だと肩身が狭い」「所帯を持っていた方が仕事でも信頼感が増す」といったもの。こういった動機が、相手のいいところを探して心を通わせようとしたり、交際まで踏み込む積極性を奪っている面は否定できないが、同時に「ある年齢に達した男性は結婚しているべきだ」という世間の「暗黙の了解」が彼らのプレッシャーになっている点も考えずにはいられない。