とても残念に思ったことがあった。
先般、世界の主要な経営理論89を紹介した『経営理論大全 すぐに使える最強のビジネスセオリー』(朝日新聞出版)の翻訳監修を行い、大変好評を得ている。英国のビジネス書大賞にも選ばれており、内容は折り紙付きだ。しかし、日本人による理論はわずかに「品質マネジメント」分野における石川の特性要因図、今井のカイゼン5Sハウスキーピング理論だけだった。
もちろん、著者であるジェームス・マクグラスとボブ・ベイツによる選定であるから恣意的であることは認める。しかしながら、日本は100年以上続く長寿企業が世界最多で、海外でも高い評価を受けている品質管理、終身雇用制の中で生まれた従業員の勤勉な態度、「おもてなし」という言葉に代表される接客の品質の高さなど、世界に誇れる「日本人独自の経営」があるはずだ。
敗戦の焼け野原から世界第2位の経済大国にまで急成長してきた日本企業を支えたものは、なんだったのだろうか。そしてそれらこそが、グローバル時代における日本の「ウリ」なのではないだろうか。そう思わずにはいられない気持ちになった。
グローバル時代においてビジネスパーソンが学ぶべきは「英語、IT、ファイナンス、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング」などといわれている。そして筆者もまったく同意見だ。
しかし、それは世界で戦うための最低限度のいわばイロハの世界でしかない。外国企業が日本に進出した際には、そうした人材はボスにとって使いやすいスタッフとはなり得るだろう。日本は日本語というある種のバリアがあるからこそ、価値のある人材になるという面もあるのだ。
しかしグローバルな視点で考えれば、英語とITができる人材であれば、インドなどのアジア諸国のほうがはるかに安い人件費で優秀な人材を確保できる時代だ。実際、IoT(インターネットとモノの融合)やビッグデータなど最新技術分野の技術者は、もはや日本人だけでは確保できない状況にあり、海外の優秀な人材をいかに確保するか、そして彼らをマネジメントできるCTO(最高技術責任者)等をいかに育成するかが、日本企業の重要な課題になってきているのだ。
世界のルールで競争する
一方で日本企業がグローバル展開を行う際には、それだけでは世界では勝てないのではないだろうか。もちろんトップティアの人材は世界の強者の中でも生き残れるかもしれないが、グローバル化とはすなわち世界中の企業や人材と同じルール上で競争をするということなのだ。
『経営理論大全 すぐに使える最強のビジネスセオリー』 ドラッカーもコヴィーもポーターもこの一冊で丸わかり! 経営学史上「傑作」と言われている89の理論を厳選し、1ページでわかりやすく図解。あらゆるビジネスシーンで応用できる実践ガイドつき。 本書に収められているのは、実際の仕事の世界で繰り返し価値を実証してきた理論だけだ。これらの理論を読み、理解し、じっくり検討して、使っていただきたい。そうすれば、あなたはマネジメントに関する議論で、ほぼどんな相手ともしっかり渡り合えるだろう。