例えば、イタリアは国家としては日本同様国家債務に苦しんでいる国だが、地方都市発のラグジュアリーブランドは世界を席巻している。フェラーリ、マセラティなどの自動車、ルイ・ヴィトン、プラダ、アルマーニなどだ。スイスも人口は約800万人にすぎないが、パテック フィリップ、ロレックスなどの高級腕時計ブランドの本社や工場がひしめいている。ブランド企業の多くは、山奥のわずか10名ほどの職人の工房だったりする。
スイスの時計ブランドは拙著『ビジネスモデル』(朝日新聞出版)でも説明したように、日本企業、とりわけシチズンがデジタルパーツを劇的な低価格で時計メーカーへ提供し始めたことによって、一時期瀕死の状態に陥った過去がある。そこから約30年の年月をかけて、現在のラグジュアリーブランドを確立することに成功した。
これらの事例は、日本企業のグローバル展開にも重要な示唆を与えてくれるはずだ。それはいずれも、「彼らだけしかできない強みを生かしている」点だ。
一方、日本におけるクールジャパンというと漫画、アニメ、オタクなどがイメージされる。例えば、日本人の歌手が海外公演を行う際に人気があるのはアニソン(アニメの楽曲)だ。また、競売会社サザビーズが米ニューヨークで行ったオークションでは、現代美術家の村上隆氏の制作したオタク系といわれるフィギュアが1516万ドルで落札された。
しかしそれだけではない。全世界で300万部以上の大ヒットとなっている近藤麻理恵氏の著書『人生がときめく片づけの魔法』は、アマゾンUSAのカテゴリーでは「禅」になっている。欧州・中東でも人気の「MUJI」(無印良品)も、海外での評価は「シンプルで禅を感じる」からなのだそうだ。米国でも中国でも豚骨ラーメンが大人気だし、オーストラリアでは日本の畜産家のノウハウを得て開発した「和牛」が人気だ。
これらからいえることは、世界と同じルールで競争することはもちろん可能だが、個人であればイチローや錦織圭選手のような天才的なプレーヤーに限られるのと同様、企業でもトヨタ自動車などごく一部の企業か何かに特化した優れた技術をもつ企業だけだろう。
武士道精神
実は、「ルールの支配者」としてグローバル化を進めていく戦略は、アメリカが最も得意とする戦略だ。例えば、TPP(環太平洋経済連携協定)ではアメリカは自国の法律を世界の国々に適用しようとしているといわれている。デリバディブのような金融工学などの分野もしかり。
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