一方で世界が真似できない、「日本のルール」で戦える分野であれば、日本一すなわち世界一となるのだ。「日本が輸出したいもの」ではなく「世界が日本に求めるもの」を強化し、日本のルールを世界に広めることが、本当の意味でのグローバル展開での成功のカギなのではないだろうか。
筆者はそうした海外から「日本らしい」とされている経営の根拠になるものはなんだろうと調査を行ってきた。その解のひとつとして「武士道精神」にたどり着いた。具体的には次回以降にご紹介していきたい。
読者の中にはトム・クルーズ、渡辺謙主演の映画『ラストサムライ』におけるラストシーンで、渡辺演じる勝元盛次が負けるとわかりながら敵陣に捨身で突撃し、最期はトム・クルーズの力を借りながら桜の花びらが鮮やかに舞い散る中で「パーフェクト(完璧だ)」と言い残して切腹するシーンを覚えている方もいるだろう。筆者はなぜ「パーフェクトなのだろうか?」とずっと疑問を持っていたのだが、それこそが海外において「日本らしさ」と認識されていることなのだと合点がいった。
武士道は戦争の正当化のために時の政府に「悪用」された悲しい過去がある。本来「武士道精神」とは、他者への慈愛、誠実であること、名誉を重んじること、卑怯を許さない、など、今日日本人が忘れつつある精神を指すものだった。今一度「日本らしい経営」という視点でその内容を紹介していきたい。そこには現代の企業の経営陣やビジネスパーソンにとっても参考になる点が多々あるからだ。
最後に南北朝時代に楠木正成が家臣たちに示した教えを記した「名君家訓」から、「武士の守るべき十か条」を紹介しよう。
【武士の守るべき十か条】
1.嘘を言わない。
2.利己主義にならない。
3.礼儀作法を正す。
4.上の者にへつらわず、下の者を侮らない。
5.人の悪口を言わない。
6.約束を破らない。
7.人の窮地を見捨てない。
8.してはならないことをしない。
9.死すべき場では一歩も引かない。
10.義理を重んじる。
現代の企業経営者にとっても部分的ではあるが、十分参考になるのではないだろうか。
(文=平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)
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