文章を少しでもうまく書けるようになりたい。こうした願いは、なにも文章執筆を生業にする人たちにかぎったものではないでしょう。自分の思いや考えを過不足なく文章で表現できるようになれば、メールでのやりとりなど、日常の様々な場面でプラスに働くことは間違いありません。
『文章のみがき方』(岩波書店/刊)の著者である辰濃和男さんは、1975年から1988年にかけて朝日新聞の「天声人語」を執筆していた経歴の持ち主。そんな辰濃さんが、様々な文豪の名言を紹介しつつ、自身の記者経験も交えながら、文章書く上での心がまえ、文章の書き方、推敲の仕方、感性の高め方などを解説しているのが本書です。
■毎日、書く
日記をつけることは、野球でいうところの「素振り」のようなもの。だからこそ「毎日、日記をつける」ことが重要なのだといいます。よしもとばななさんも「10日書かないと、10日分へたになる」と書いているそうです。
■書き抜く
戦後日本を代表する思想家、鶴見俊輔さんは小さいときから「書き映しノート」をつくり、その数は軽く百冊を超えていたそう。すぐれた文章を多く書き写すことのメリットは何か。そのひとつに、自分の文章の「どこがいけないか」が分かるというものがあるそうです。
■繰り返し読む
辰濃さんいわく、「いい文章を読むことは、いい文章を書くための大切な栄養源」。したがって、「いいな」と思う本に出会ったら繰り返し読み、傍線を引き、感想や要約を書いて、その本を味わい尽くすことが、文章力を引き上げることにつながります。
■乱読をたのしむ
著者は「天声人語」のコラム執筆を通して、あらゆる分野の本に出会ってきた経験から、乱読することの重要性を説きます。そのメリットとして、「自分の世界を広げられること」、「未知の世界に出会うことで脳に刺激を与えられる」といったものが挙げられます。
■歩く
辰濃さんは記者時代、執筆をしていて煮詰まると、必ず「歩く」時間を設けたそうです。というのも、歩くうちに「書くことのヒントがひょっこり浮かぶ」ことが再三あったから。本書では、永井荷風さんや池波正太郎さんといった文豪たちが散歩をとても好んだというエピソードも紹介されています。
■現場感覚をきたえる
本書では、すぐれた文章の条件のひとつに「現場の空気がただよっていること」を挙げています。ここでいう現場とは、はじめて訪ねた街、電車のなか、デパートの地下街など、「文章の種」になりそうなものが転がっている場所すべて。そして、現場に出くわしたら「視覚だけでなく、嗅覚、聴覚、触覚、味覚など全感覚を鋭く働かせて」書くことで「現場の空気がただよう」文章になるといいます。