一般的に、老後資金は3,000万~4,000万円必要だと言われます。でも、給料が増える見込みはなく、雇用も保証されず、家のローンに子どもの教育費、親の介護など、貯金どころか支出が増えるばかり。メディアでも年金破綻や老後貧困が報じられ、真面目に働いている人ほど、自分の老後は大丈夫だろうか?と不安を抱えているでしょう。そして、そのために節約を心がけている人が多いはずです。
経済評論家の佐藤治彦さんの著書『年収300万~700万 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』(扶桑社/刊)は、「お金に振り回される生活はもうやめましょう」と提案する本です。
電気をこまめに消すとか100円ショップを活用するなど、細かいやりくりを指南するお金の本はたくさんありますが、本書はそうしたノウハウ本ではありません。むしろ爪に火をともすような節約を否定しています。しかし、大切な考え方が述べられているのです。
老後のためにも、今の楽しみをガマンしない
若いときに食費を削り、70歳になってお金があるからさあ食べようといっても、若いときほどは食べられません。80歳になって海外旅行をしても、体力も脚力も衰えています。若いときに着たかったカッコイイ服も、70歳のときには似合わなくなっているでしょう。
これは「遊んで暮らせ」ということではなく、老後のために現在の生活をつまらなくしたらもったいないということ。佐藤さんは、現在も老後も必要なものはさほど変わらないと言います。それは、健康、人間関係、趣味など、人生を豊かにしてくれるもの。経験や思い出もそのひとつで、それこそ老後になって慌てて築こうとしても、なかなか難しいものです。だから、老後に備えるならむしろ健康に気を遣い、人間関係や趣味を豊かにしておくべきだそうです。
そうはいっても、先立つものはお金ですよね。貯金がなくてはやはり不安です。そのために、「お金は縛らず、通帳に入れる」のです。
本当に必要なものを考える
バーゲンで買ったけれどほとんど着ていない服、安い!とまとめ買いして冷蔵庫で腐らせた食材、コンビニに行ったついでに買うドーナツ。これこそが無駄です。本当に欲しいもの、自分の人生を豊かにしてくれるものを吟味してお金を使いましょう。物欲だけではありません。人生での大きな支出は、生命保険、教育費、マイホームといいます。このうち、保険とマイホームを見てみましょう。
佐藤さんは、日本の社会保障制度はまだまだ捨てたものではないと言います。病気になったときには「高額療養費制度」があり、年収600万円以下の世帯・国民健康保険の場合で、月の自己負担上限額は約8万円です。会社の健保に入っていればさらに手厚いでしょう。不幸にして働き手が亡くなった場合、国民年金から子どもが18歳になるまで配偶者と子どもに遺族年金が支払われます。
一方で、一世帯あたり、年間41万円を民間の保険に払っています。40年間払ったら1,600万円以上です。しかも病気の種類、支払いの方法に縛りがあります。これを貯蓄にまわし、いろんな「いざ」というときフレキシブルに対応できるようにしたほうがよくありませんか? というのが佐藤さんの考え方です。