2015年12月、自民党の宮崎謙介衆議院議員が育児休業の取得を宣言したことが波紋を呼んだ。
宮崎議員は昨年、自民党の金子恵美衆議院議員と結婚し、金子議員は今年2月に出産を予定している。それに伴い、宮崎議員は「約1~2カ月の育休を取る」と表明したのだ(金子議員は3カ月)。
しかし、そもそも衆議院規則には育休規定がなく、出産に関して、185条で「議員が出産のため議院に出席できないときは、日数を定めて、あらかじめ議長に欠席届を提出することができる」と規定されているのみだ。
年が明けた1月6日、宮崎議員は自民党の男性議員約10人を集め、「自民党 男性の育児参加を支援する若手議員の会」を開催、規則改正を働きかけているが、自民党の国会対策委員会幹部からは「国会議員全体の評判を落としている」「生まれてくる子供を使って名前を売っている」などと批判が巻き起こっている。
近年、「イクメン(子育てに積極的に取り組む男性)」なる言葉も生まれたが、男性の育児休業取得率は2.3%(厚生労働省「平成26年度雇用均等基本調査」)と極めて低いのが現実だ。さらに、育休取得によりキャリアが中断され出世コースから外れる、あるいは取得および育児のためのフレックス勤務などを妨害する「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」の問題も表面化しつつある。
安倍晋三首相は、成長戦略において「『女性が働き続けられる社会』を目指す」と打ち出しており、そのためには男性の育児参加の重要性もうたっている。政府は男性の育休取得率について「20年に13%」という目標を掲げているが、“議員パパ”の育休取得に、同じ自民党内からも反発が出ている状態だ。
確かに、国会議員は一般会社員とは立場も働く環境も違うため、「自らの立場をわかっていない。休んでも、その間の報酬は税金から支払われるのは納得いかない」(30代女性)、「権利ばかり主張している。公僕である議員は、任期中は職務をまっとうすべきだ」(40代男性)という批判がある。
一方で、「評判を落とすのは、批判している自民党幹部のほうだ。これで『子育て支援・少子化対策』は聞いてあきれる」(30代男性)、「国会議員こそ率先して育休を取るべきです。議員に多様な価値観を醸成するいい機会だと思います」(20代女性)などの擁護派もいる。
育休取得の妨害は明らかに違法
「国会議員が育休取得」の是非はともかく、「育休を取る意思を示しているのに、組織がそれを妨げる」というのは、法的に問題ないのだろうか。弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士の山岸純氏に聞いた。
「育休については、『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』が、その取得基準や取得する手続きなどを定めています。同法は『事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない』と定めています。
つまり、育休取得を理由に給与を下げる、昇進させない、といったことが禁止されるのはもちろん、『育休を取得するなら給与を下げる、昇進させない』などと育休取得を妨げることも厳禁とされています。
実際、『3カ月間の育休取得を理由に昇給や昇格がされなかったことは違法である』として、京都府京都市の看護師が病院を訴えた件において、15年12月16日、最高裁判所は『昇給・昇格を認めなかったのは違法である』とした大阪高等裁判所の判断を認め、いわゆるパタハラを違法と判断しています。このように、育休取得を妨害することは明らかに違法となります。
ただし、上記の法律は『育児休業』を『労働者が、その子を養育するためにする休業をいう』と規定しています。つまり、『労働者』だけが堂々と育休を取得できるという意味合いなのです」(山岸氏)
「労働者」とは、一般的に雇用主に雇用されて職務に従事する者を指す。その点、自民党の谷垣禎一幹事長は「議員は被雇用者と違う」と釘を刺しており、衆議院規則に育休規定がないのもそのためだ。
ただ、あくまで一般企業の例として考えれば、一社員が「育休を取りたい」と申し出ているにもかかわらず、上司および会社側がそれを妨げているような状況であることも事実だ。
また、安倍首相の側近ともいえる菅義偉内閣官房長官は、昨年12月の宮崎・金子夫婦の結婚披露宴で、「育休を取るための議員立法を超党派でつくったらいい」と、男性議員の育休取得を促すような発言をしている。
男性初の“育休議員”として、宮崎議員は名を残すことになるのか。それとも、パタハラに屈するのか。そのゆくえが注目される。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士)