電通過労死の土壌は30年前にできていた!そしてまた長時間残業は解消されない…
政府の「働き方改革」が必ず失敗する理由
現在、政府による「働き方改革実現会議」の開催や電通の女性社員の過労自殺によって、会社員の働き方に対する注目が高まっている。
長時間労働の是正は、働く人々の心身の健康を考えれば、その重要性は明らかであるし、「仕事と家庭の両立」をかけ声倒れで終わらせないためにも実現しなければならない問題だ。
ここで指摘しておく必要があるのは、過労死が社会問題化した90年前後や、中高年男性のリストラに関心が集まった2000年前後にも働き方の見直しをめぐる議論は活発になったが、結局、長時間労働は改善されないまま今日に至っているという事実だ。
過労死にしてもリストラにしても、自分が当事者にならない限りは他人事にすぎない。そのため、ほとんどの人にとって、働き方を見直す契機としては機能しなかった。同じことは、今日のブラック企業への批判にも当てはまる。
9月に行われた第1回「働き方改革実現会議」で、安倍晋三首相は長時間労働について「腕まくりをして、この課題に取り組んでいく」と決意を表明した。しかし、本当に必要なのは「腕まくり」などではないはずだ。
過去の失敗を繰り返さず、残業が「当たり前」になっている現状を本気で変えたいのであれば、議長として安倍首相がするべきなのは「働く人たちが当事者意識を共有できる議題の設定」だろう。
今から四半世紀も前に、蛭子は「あなたはゾンビではないのか?」と世の会社員たちに問いかけた。政府は「働き方改革」を成功させたいのであれば、目をそらさずにこの問いに向き合うしかない。
ホワイト企業とブラック企業、正社員と非正規社員といった垣根を越えて共有することができるのは、「どうして働くのか」「働くことの意味は何か」という根本的な問題だけだからである。
(文=田中俊之/武蔵大学社会学部助教)