■抽象階層(レベル9~レベル11)の回答
抽象階層になると、物事を具体的な特徴ではなく、抽象的に考えることができるようになる。
レベル9では、事物の抽象的な1つの側面を捉え、「人は人間と言い換えることができます。赤ん坊を除き、人間は考えることができます」といった回答が可能になる。
「人は理性を用いて物事を判断することができます。そうした判断は、各人異なる考え方に左右されます」と、事物の抽象的な特徴を1つ取り上げ、その特徴についてさらに1つの抽象的な特徴を説明することができていれば、レベル10ということになる。この辺りになると、物事の認識度が深まってくる。
レベル11では、事物の抽象的な特徴を複数捉えながら、それぞれを関連づけることができる。「人は非常に複雑な存在です。各人様々な価値体系を持っており、異なる知識と経験を持っています。固有の価値体系は、新たに独自の知識や経験を生み出します。そして、固有の知識と経験は、新たな価値体系を構築していくことにつながります。つまり、価値体系と知識と経験は相互作用をし、それが人間を複雑な存在にしているのです」のように、回答を抽象的な性質同士の関連性にまで落とし込めた人は、レベル11ということになる。
■原理階層(レベル12)の回答
原理階層は、フィッシャーが体系化した、人間の能力レベルの最高位に位置する。
このレベルでは、レベル11で作った事物の複数の抽象的特徴のまとまりをさらに複数作り、それらを関連づけ、一段高次元の概念の中で、それらをまとめることができる。
「人というのは、『動的な要素非還元的存在』です。つまり、各人固有の意味構築システムと社会の文化的・制度的なシステムが相互作用することによって、全体としての1人の存在を形作っている、ということです。具体的には、人はそれぞれ、各人固有の認識世界を持っており、現象に対する意味づけの仕方が異なります。こうした意味づけの方法は、置かれている文化や制度による影響を強く受けます。また、私たちの意味づけの方法が変われば、社会の文化や制度に対して影響を与えることになります。このように、私たち人間は、絶えず自己と社会との相互作用によって変化する生き物であり、特定の要素に還元することができないため、『動的な要素非還元的存在』だといえるでしょう。」
このレベルになると、思考や認識の深さとともに、言語能力の高さも際立ってくる。しかし、フィッシャーによると、ここまで深く物事を認識し、深く考え、言語化し、発揮できる人はほとんどいないという。
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いうまでもなく、ここで示した回答は一つの例。完全に合致したかどうかが問題ではなく、問いをどこまで深く認識し、どこまで深く考え、どこまで過不足なく言語化できたかが焦点であり、それは自分の回答を検討することで見えてくるはずだ。
先述のように、言語化能力は持って生まれたもので決まるわけではなく、経験や訓練によって高めていくことができる。また、「問題解決能力」や「問題発見能力」「コミュニケーション能力」「意思決定力」といった個別かつ具体的な能力を伸ばしていくための礎である。