加計学園への獣医学部設置認可をめぐる問題で、文部科学省前事務次官の前川喜平氏は先月25日に会見を開き、「総理のご意向」などと書かれた文科省内部の文書を「本物だ」と証言して以降、安倍晋三首相に対する野党の追及やマスコミの報道が加熱している。
そしてこの問題が飛び火するかたちで、首相官邸と読売新聞の“近すぎる距離”がクローズアップされる事態となっている。
前川氏の会見直前に当たる先月22日に読売は、すでに文科事務次官を辞任していた前川氏が、次官在任中に出会い系バーに通っていたと報じた。これを受け、前川氏による情報公開の動きを察知した首相官邸が、その動きを潰すために前川氏に関する情報を読売にリークしたのではないかという見方が広まった。つまり、読売は官邸の“肩を持った”という批判だ。
すると読売は6月3日、『次官時代の不適切な行動 報道すべき公共の関心事』という記事を掲載し、次のように批判への反論を展開した。
「読売新聞の記事に対し、不公正な報道であるかのような批判が出ている。(略)しかし、こうした批判は全く当たらない」
「辞任後であっても、次官在職中の職務に関わる不適切な行動についての報道は、公共の関心事であり、公益目的にもかなうものだと考える」
大手新聞としては異例ともいえるこの反論記事は、マスコミ業界や識者の間で議論を呼んでいるが、ジャーナリストの朝霞唯夫氏は、同記事にこう疑問を投げかける。
「5月22日付読売の前川報道には正直、笑ってしまった。前川メモが出て、官邸がいよいよ行き詰りかというタイミングでの“前川バッシング”だったからだ。あまりにも安倍政権にとって都合のいい内容とタイミングなので、官邸からのリークだとみられても仕方ないだろう。一般の人たちに聞くと、『読売は本当に安倍政権の御用新聞になってしまった。もう読まない』『どうして、そんなに安倍さんの肩を持つのか』といった声ばかりが返ってきた。販売店にも苦情が多く、困っているとの話も聞く。6月3日付朝刊に、原口隆則・東京本社社会部長名で書かれた反論記事は、読者からのクレーム処理に追われる販売店対策とも受け取れる。いや、それしか理由が思い浮かばない。わざわざ社会部長名で書かれるべき内容に当たらないからだ」
懸念される記者離れ
また朝霞氏は、先月の読売による第一報にもこう疑問を投げかける。
「『総理のご意向』と書かれたメモが出回り始めたとき、“犯人探し”で名前が挙がったのが前川氏でしたが、霞が関関係者や野党関係者のみならず、自民党関係者からも前川氏の人格を否定する声は出ませんでした。『彼は中立公正で、とても優秀』という声しか聞こえてきませんでした。
読売が前川氏に関する報道を問題ないとするならば、なぜ本人に直当たりしなかったのか。また、記者会見後に単独インタビューをするなどして、自らの報道の正当性を立証しなかったのか。断片の事実だけで、『真実のすべて』であるかのような主張は、報道の死を招く結果になりかねない。各紙にはさまざまなレッテル貼りをする傾向がみられるが、現場は真摯に事実に向き合う記者が多く、読売にも優秀な記者は多い。その現場の気持ちを踏みにじるような紙面づくりを続けていると、読者離れとともに、記者離れも起きかねない。読売の前川報道には、そんな危機感を持っている」
一連の読売の報道を、同紙記者はどのように受け止めているのであろうか。
(文=編集部)