Facebook、Airbnb、Uberなどの世界的に注目を集めている企業について、どのくらい知っているだろうか。真新しく、便利で、優れたプロダクトを開発し、世の中に向けて提供し続けている。だが、彼らによってもたらされたインパクトは、それだけではない。
簡単に説明すると、Airbnbは「バケーションレンタルサービス(民泊サービス)」を、Uberは「ライドシェアサービス(自動車配車サービス)」を世界的に展開している。Facebookは言わずと知れたSNSの世界最大手である。
彼らの特徴は、既存の分野内で真っ向から勝負したのではなく、既存の分野から少しはみ出して、新しいビジネス領域、つまり市場を創造した点にある。つまり、新たなカテゴリーを生み出し、そのトップを維持し続けているというわけだ。
2016年にアメリカで刊行され、高い評価を受けた“Play Bigger”の日本語版『カテゴリーキング Airbnb、Google、Uberはなぜ世界のトップに立てたのか』(アル・ラマダン、デイブ・ピーターソン、クリストファー・ロックヘッド、ケビン・メイニー著、長谷川圭翻訳、集英社刊)は、彼らを「カテゴリーキング」と呼び、なぜ常に勝者であり続けることができているのかを説明している。
しかし、「カテゴリーキング」とだけ言われても、イメージしにくいだろう。
『カテゴリーキング』の日本語版まえがきを執筆した東京理科大学大学院教授の宮永博史氏が、「アルコール度数0%の完全ノンアルコールビール」を例に説明をしているのでご紹介したい。
2009年にキリンビールが生み出した「キリンフリー」は、それまでの微量のアルコールが入っていたノンアルコールビールとは違い、アルコール度数0%の「完全ノンアルコールビール」の製造を実現。その一方で、製造方法に工夫を重ね、技術開発を行い、ビールらしい味わいを再現した。その結果、ノンアルコールビールの売上増を達成し、さらに酒業界に「ノンアルコール」という新たなカテゴリーを創出する原動力になったのだ。つまり、キリンは「ノンアルコール」のカテゴリーキングとなったわけである。
しかし、その2年後には、キリンはカテゴリーキングの座から陥落することになる。サントリーやアサヒといったライバル企業の製品に、「キリンフリー」は抜かれてしまう。
実は、カテゴリーキングの座を維持し続けることは、大変難しいことだ。宮永氏が指摘するように、40年以上カテゴリーでトップを走り続けている企業として日本ならばヤマト運輸があるが、これはかなり稀なケースである。
本書に出てくるのは、ITが発展した後に生まれた企業がほとんどである。おそらく、これからカテゴリーキングの座から陥落する企業も出てくるはずだ。それでも、現段階で世界を席巻している彼らから充分に学ぶ余地があるだろう。
その理由を本書から一つあげるとすると、彼らの強みは「優れた製品」をデザインする力だけではないという点にある。「優れた企業」をデザインする力、そして「カテゴリー」そのものをデザインする力を身に付けているのだ。
例えば、Googleは優れたプロダクトを無料で提供し続けているが、それだけではない。Googleという企業の持つ人材開発、アイデアの生み出し方、働き方も世界的なスタンダードとして世に出回っている。そして、今や「Googleがやっているのだから」という免罪符のようなものになりつつある。これは、「優れた製品」だけでは、そうはならない。企業が継続して注目されるには、そのカテゴリーのスタンダードになってしまえばいいのだ。
おそらく、「優れた製品」だけで企業が繁栄し続ける時代は終わった。そして、すでに「カテゴリーキング」を目指す時代が始まっている。
ただ、一つ誤解しないでほしいのは、「カテゴリーキング」は新しい動きではない。先に述べたヤマト運輸もそうだし、1920年代にアメリカで生まれたバーズ・アイは冷凍食品という新たなカテゴリーのキングとなった。これはビジネスで成功するための原理は変わらないということを示している根拠にもなるだろう。
『カテゴリーキング』が提示しているのは、新たな市場の創り方である。読者に対して、大いなるインスピレーションとフレームワークをもたらす一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。