お金を貯めこんでいるというイメージが手伝ってか、お年寄りの財産目当ての犯罪は、警戒を呼び掛けるアナウンスがしきりになされているにもかかわらず後を絶たない。
代表的なものが、年間被害額が400億円近くまで及ぶ「振り込め詐欺」などの特殊詐欺だろう。しかし、ここにだけ気をつけていると、別の悪質行為の餌食になってしまうかもしれない。お年寄りの財産を狙う輩は、何もわかりやすい犯罪者とは限らない。
■信託銀行の格好のカモに!なぜ高齢者の資産がバレるのか
『親が認知症になる前に読む お金の本』 (速水陶冶著、三栄書房刊)は、老人の資産を狙う輩とその手口について、実例を交えて解説していく。本書を読むと、お年寄り、特に認知症の症状が出ている人から財産を奪うのに、わざわざ電話をかけて騙すというという煩雑な手続きなど必要ないのではないかと思える。
実例を挙げてみよう。
佐久間昇さん(仮名)夫婦には子どもがなく、年老いてからは二人で有料老人ホームに入居していたが、入居から数年後に妻が他界。佐久間さんが妻の財産を相続することになった。妻の遺産は約8000万。生前に「遺言信託」を利用して遺言書を残していた。
相続は無事に終わったが、問題はこの後だ。
本書の著者である速水陶冶氏は司法書士。佐久間さんの資産の管理をしてほしいと老人ホームから連絡があり訪ねていくと、驚きの事実が発覚した。
佐久間さんのメインバンクの通帳をチェックしていくと、相続による8000万円の入金の直後に、5000万円が遺言信託を行った信託銀行の投資信託に移行されていたのだ。
ちなみに佐久間さんには妻の死亡時点で認知症を患っており、元本割れのリスクを理解したうえで投資信託の契約をする判断能力はなかった。自分の意思で契約したとは考えにくい状況である。調べていくと、老人ホームの施設長が席を外している間に、行員が佐久間さんに契約書にサインさせ、勝手に契約をとってしまったものと考えられた。
速水氏は、司法書士として活動する中で類似の例を他にも見ているという。
「信託銀行にとっては、やみくもに営業をするよりも、もっと手っ取り早く資産家を見つけ出したいはずです。その点で、遺言信託は、資産を把握できる格好の機会なのです」(速水氏)
行員との打ち合わせ時、顧客は自分の財産を包み隠さず伝える必要がある。遺言信託で銀行側が得られる報酬は、銀行にとってはたかが知れているが、それでも信託銀行が遺言信託のセールスに力を入れるのは「財産を把握でき、次のセールスにつなげられる」という理由があると速水氏は分析する。
総務庁が2013年に行った家計調査によると、2人以上の世帯における平均貯蓄額は、60歳以上で2000万円を超え、年間収入も400万円を超えている。今の日本で一番裕福なのはおそらくこの世代であり、今の現役世代の親の世代である。
それなりに資産のある年老いた親をこうした悪質な行為から守るためにどんなことが必要なのか。本書は今だからこそ知っておくべき資産防衛の知見を数多く解説している。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。