お召しものは、植田いつ子さんのデザインされたケープ状のものをよくお召しになられていますが、以前何度かお見かけしたことがあるなというものでも、ちょっと帽子やバッグを替えたり、コサージュをつけられたりして、イメージを変化させていらっしゃいます。おしゃれ上手でいらっしゃるんでしょうね。
–素敵なエピソードですね。皇后陛下の見た目の魅力は、どういったところにあると思いますか?
里岡 歩くテンポが独特で魅力的なんですよね。一見ゆるやかに見せながら、意外にテキパキとされている。男性である天皇陛下に合わせていらっしゃるところもあるでしょうね。ダンスのステップのように、軽やかな足どりでいらっしゃるんですよ。かつ若々しくて、まるで少女のような一面もある。お声も、お年を感じさせず可憐ですし、歩き方も身のこなしも小気味よく、拝見していて気持ちがいいんですよね。運動神経がよくていらっしゃるんだろうと思います。意外に思われるかもしれませんが、決してゆっくりのんびりと動かれる方ではないんですよ。
–皇后陛下は、一時期はお言葉が出なくなった(失語症の)時期もありましたね。
里岡 その時も、私は接遇しています。特別機で松山線にご搭乗なされたんですが、皇后陛下はお声が出ないので、こちらに何か知らせてくださる時にはジェスチャーや手話を使われていました。
天皇陛下は機内の窓から外の景色を眺められるのがお好きで、その時も「もうすぐ瀬戸大橋が見えますよ」というのを天皇陛下にお伝えしたんです。すると、おふたりで座席の一番前へと出られて、外をご覧になられていたんです。「見えましたよ」というのを、私にお伝えくださるのに、ややお顔を傾けるかたちで、私の目をしっかりとご覧になって、慈愛に満ちた笑顔をお向けくださり、そして私の手をご自身の両手で柔らかくお包みくださったんです。そして、手の甲をやさしくやさしく撫でてくださったんです。
ご自身がお声を失われるという、私たちには想像もし得ないほどの状況下にありながら、そんなお気持ちを私どもにまで向けてくださる。こちらとしては、もう涙をこらえるのに必死でした。
ほかにも、皇后陛下が私に「飛島(とびしま)ってご存じ?」と聞かれたことがあって。私が聞き間違えをしてしまい、「トリシマでございますか?」と申し上げたところ、皇后陛下は両手をパタパタと鳥が飛ぶようなジェスチャーをされながら「ううん、ジャンプのトビシマ」とおっしゃったんですね。すごくユーモアあふれる、ウィットに富んだ才女でいらっしゃると感じました。そういった表現が常にすっとお出になるわけですから。
●「プロフェッショナル」とは?
–ANAご在籍中の24年間のうち、15年間にわたり、そうそうたるVIPの方々を接遇してこられた里岡さんの考える「プロフェッショナル」とは?
里岡 常に一定以上のクオリティをキープすることですね。常にというのは、いかなる状況下でもということです。緊張下やとっさのとき、たとえ自分の家族が病気のときであろうとも、一定のクオリティが保たれなければならないと考えています。いったんビジネスという舞台に立ったら、そのクオリティが約束されたものでなければ、プロフェッショナルとはいえません。
–そのために大切なことは?
里岡 まず中身の伴った習慣を実践することですね。よく人材育成の研修などでは“かたち”から入ったり“かたち”だけを求められたりする例が見受けられます。でもそれでは意味がない。習慣化されたものでなければ、その人のものでないし、またとっさのときに出るわけもありません。
相手の期待を少しだけ上回れるよう意識することも大切です。相手の期待値は、自分の提供するものの基準値となります。自分が何かをしようと思ったときには、相手の期待がどれくらいの位置にあるのかを意識するといいですね。そして、それを少しだけ上回ろうと意識する。オーダーを著しく下回らないことです。
–あくまでも“少しだけ”上回る、というのがポイントなのでしょうか?
里岡 たくさん上回ろうとすると、ハードルが高くて息切れしてしまいます。一発芸ではダメなんです。常に一定のクオリティを保たなければ意味がない。「上回ろう」と思うのではなく、しっかりと責任を持って最後まで頑張ろうとすれば、おのずと工夫して、できないことはできないと、無理なことは最初からしないはずです。その結果、相手の期待を少しだけ上回ることになるんですね。
–なるほど。では、そういった仕事をしていくために必要な条件とはなんでしょうか?
里岡 拙著『「また会いたい!」と言われる女(ひと)の気くばりのルール』(明日香出版社)に「接遇者に必要な8つの条件」というのを挙げましたが、まずひとつ目は「心の状態管理」ですね。精神面も含めて自分自身のコンディションをしっかり管理すること。これができない人は、どの道に行ってもプロフェッショナルにはなれないでしょう。
そして男性がおざなりにしがちなので、読者のみなさんにも特に注意していただきたいのは、8つ目に挙げた「役割にふさわしい外見管理」です。
–役割にふさわしい外見管理とは?
里岡 例えば私ですと、接遇の研修の講師などを行う場合には、相手は相手なりに「そういうことを教えてくれる人がくるんだ」と想像するわけですよね。それで自分だったら、どういう人を想像するか。そう考えを巡らせると、おのずとスーツできちんとした身だしなみで、姿勢にも気を配って……となるわけです。
つまり、相手が期待しているイメージを裏切らないことが大切。外見が中身をつくり、中身は外見に表れるのですから。でもギャップも大切で、普段はそんな堅いことはないんだよ、というセルフプロデュースも必要ですね。
『「また会いたい!」と言われる女(ひと)の 気くばりのルール』 気くばりができる人は、「気づける」人です。 実際にどのように考えて動けば、押しつけがましくなく爽やかに気が利く人と思われるようになるのか、気くばりの基本から実践までを元トップCAが教える。
『誰からも好かれる女(ひと)の 人と運を引き寄せる習慣』 「気くばり」本の里岡さんが、トップCAになるまでに心がけてきた仕事の習慣や、空の上・多彩な交流の中で出会った一流の人の一流たる言動を彼女ならではの柔らかな視点で説く。