–具体的には?
里岡 男性の立ち姿なんかには、よく表れますよね。着るものは、着る体ができていないと格好よく見えないものです。スーツなどは、特に着こなせませんから。せっかくいいスーツを着ても、体が貧弱ではよく見えません。女性はよく見ていますからね、そういうところを。まずは体づくりをすればよいと思います。自分の体は自分でつくらなければ、誰もつくってはくれません。何を食べるか、どういう睡眠をとるか、どんなエクササイズをするか、すべてが自分をかたちづくっていくわけですから。日本の男性は「自分」というものへの興味が希薄なのかな。
●日本ならではの「察する文化」を生かしたサービス提供を
–国内外のVIPを接遇されてきたご経験と、また現在アメリカで旅行のコンサルティング会社を経営されていることから、日本と欧米のサービスの違いや、日本の強みや弱みなど、お感じになられたことはありますか?
里岡 日本の強みは、なんといってもホスピタリティだと思います。欧米にも、もちろんホスピタリティはあるんですよ。ただあちらでは、サービスがエンターテインメントなんです。だからチップとしてお金をもらう。つまり、お金になる派手なサービスパフォーマンスが求められるのが欧米のサービスです。
一方、日本のサービスというのは、例えるなら歌舞伎の黒子のようなもの。舞台に立っている人たち、つまりお客様が楽しむために、裏方としてお膳立てすることに徹する。海外からいらしたお客様であれば、日本を楽しんでいただくため、スムーズに事が運ぶように心を配る。心を砕く。そういったもてなし方というのは、日本人特有の貴重な文化です。
–一度日本に来られた外国人の方は、日本にハマると聞きます。日本のサービスが魅力的だからというのも、大きな要因なんでしょうね。
里岡 そうですね。派手ではないけれども、確実で控えめで、それでいてクオリティが高い。クオリティの高さの背景にあるのは、プロフェッショナルとしての意識の高さです。というのは、日本では電車やタクシーなどのドライバーでも清掃のかたでも、みなさん仕事に喜びを持たれている。電車の到着も時間通りだし、しっかりとしたマナーも身につけられている。プロ意識があるからこそ、そして誇りを持って仕事をしているからこそです。欧米では違いますからね。だから、日本人のそういったサービスの姿勢が気持ちよく感じられるのでしょうし、堅実さが魅力的なんでしょう。
–欧米のサービスでは、必要最低限のことしかしてもらえないということでしょうか?
里岡 よきにつけあしきにつけ、決められたこと、言われたことしかやらない場合が多いですね。オンデマンドのサービス。だから、言われたことをやれば合格なんです。でも日本人のサービス文化では、プラスアルファのサービスが求められる。また、お客様に言われる前にやる。お客様の要求の半歩先を行くことが、当たり前のこととして根付いているんです。だから外国のサービスに、日本人客は満足しない。逆に外国人のお客様へ日本人的なサービスばかりを提供していると、人によっては余計なことをしてくれるなと嫌がる方もいます。さじ加減を見誤らないようにしないといけませんね。
ただ世界的にサービスというものを見たときに、圧倒的に力を持っているのは日本人ですよ。
–なぜ日本人が勝ると言えるのですか?
里岡 なぜなら、日本人特有の「察する文化」がありますよね。察するサービスが常に求められていて、それに慣れているわけですから、私たち日本人は人の心を読むということを非常に得意としています。ですから、日本人的サービスを提供するか否かは、相手を見て決めればいいわけです。日本人のサービスをtoo muchと感じられるお客様であれば、やらなければいいだけですから。
–なるほど。やるかやらないかのさじ加減も、また察すればいいと。そして、われわれ日本人は文化的背景から「察する」ことを得意としているということですね。
里岡 そうです。ただこちらのサービスを「必要ない」というときに、外国の方ははっきりおっしゃるからいいんですが。それこそサッチャー元首相のように、お食事の説明を途中で切って「(説明はみなまで)いらない」と。でも日本人のお客様って言わないんですよね、その場では。
私はクレームを受けたら、直すところは直して、あとは何事もなかったように接します。日本人のお客様はあとでおっしゃることが多いので、こちらとしてはどうしようもなくて……居心地の悪い思いをされたんだろうな、おっしゃってくださればよかったのにと残念に思ったことがよくありますね。
(構成=大川内麻里)
プロフィール
●里岡美津奈(さとおか・みつな)
24年間に渡り、ANA国内線、国際線のチーフパーサーとして、またそのうちの15年間は天皇皇后両陛下、英国元首相マーガレット・サッチャーをはじめとする、各国の国家元首のVIP特別機の担当として活躍。
2010年のANA退職後は、それまでの経験を生かし、企業や病院で人財育成のコンサルタントとして「コミュニケーションの素晴らしい世界」を提案。
また個人のクライアント向けに“パーソナルクオリティーコンサルタント”として個人の持つ能力、魅力をさまざまな分野において遺憾なく発揮できる人財育成を行っている。
WEBサイト:http://mitsuna.satooka.jp/
ブログ:http://mitsunasatooka.seesaa.net/
Facebook:https://www.facebook.com/mitsuna.satooka
『「また会いたい!」と言われる女(ひと)の 気くばりのルール』 気くばりができる人は、「気づける」人です。 実際にどのように考えて動けば、押しつけがましくなく爽やかに気が利く人と思われるようになるのか、気くばりの基本から実践までを元トップCAが教える。
『誰からも好かれる女(ひと)の 人と運を引き寄せる習慣』 「気くばり」本の里岡さんが、トップCAになるまでに心がけてきた仕事の習慣や、空の上・多彩な交流の中で出会った一流の人の一流たる言動を彼女ならではの柔らかな視点で説く。