「日本、海外のVIPたちの素顔と魅力の秘密」
「知られざるCAというお仕事の裏側や難しさ、魅力とは?」
「プロフェッショナルとして仕事で一定のクオリティを維持するための極意とは?」
などについて聞いた。
●サッチャー元首相の知られざるエピソード
–里岡さんがCAとして最初に接遇されたVIPは、あの「鉄の女」と呼ばれた故・サッチャー元英国首相だったそうですね。どのようなご印象でしたか?
里岡美津奈さん(以下、里岡) 私が接遇させていただいていたのは首相を退任されたのちのことで、すでに60代半ばでしたでしょうか。まずその美しさに圧倒されましたね。抜けるように白い肌。たっぷりとした栗毛色がかった金髪。思っていたよりも身長もお高くていらっしゃる。テレビでは、普通の年齢相応の女性というふうに見えたかと思いますが、想像をはるかに超えた美しさをお持ちでしたね。とても女性らしくしなやかなマダムという感じで、「鉄の女」という印象とは程遠い方でした。
–なるほど、それは意外な一面ですね。一方、内面的なご印象はいかがでしたか?
里岡 そうですね、言葉だけは単刀直入だったのを覚えています。例えば、機内でのお食事のご説明をさせていただいた時には、私の説明をすっと途中で切られて「これとこれとこれだけでいいです」と。常についているアシスタントの女性に対しても、指示もシンプルで、必要なことしか言わない。ジョークなど口にされることなんてありませんでした。
また彼女は、作家で当時上院議員でもあったジェフリー・アーチャー氏と懇意で、その時もお連れになっていたんですが、サッチャー元首相とは対照的に彼はジョークばかりの方で、そのコントラストがおかしくて。でもおふたりのお姿を見ていると、サッチャー元首相には、きっと私たちには知り得ないチャーミングさもおありなんだろうなと感じていました。
–接遇された時の印象深いエピソードは?
里岡 首相を退任されたばかりだったので、呼称は通常「レディー・サッチャー」、日本語で言うと「サッチャー女史」となるところ。しかし、接遇前にまず必ず「マダム・サッチャー」つまりは「サッチャー夫人」とお呼びするようにというご指示があったんです。「レディー・サッチャー(サッチャー女史)」は絶対に使わないでくださいと。ここに私は、彼女の女性としてのご主人への思いが込められていると感じたんですね。
●皇室の知られざるエピソード
–一方、国内のVIP、皇室の方々はいかがでしたか?
里岡 やはり皇室の方への接遇には、しつらえからなにから、独特の決まりごとがあります。例えば、行幸(ぎょうこう)といって天皇陛下がおひとりで外出される場合と、行幸啓(ぎょうこうけい)といって天皇皇后両陛下がおふたりで外出される場合、行啓(ぎょうけい)といって皇后陛下、あるいは皇太后陛下や皇太子殿下、皇太子妃殿下だけで外出される場合とでは、警備もまったく違います。
–天皇陛下を献身的に支えておられる皇后陛下は、テレビで拝見していても気品が伝わってきますが、実際お会いになられていかがでしたか?
里岡 エレガントな方です。それが内面からにじみ出てくるエレガンスなんですよね。外に見える面のみならず、中身の伴ったエレガントさ。お人柄ですよね。だからこそ、外から見える“かたち”も美しい。その神々しさには、みなさん魅了されるわけですよね。
–皇后陛下の、どんなところが印象深かったですか?
里岡 機内で時にはお疲れのご様子が見られることもあったのですが、そんなときでも天皇陛下がちょっとお声を掛けられると、必ず体ごと陛下のほうへ向けて、お話に耳を傾けられるんです。また、テレビなどでお気付きになられている方もいらっしゃるでしょうか。歩かれるときには、常に天皇陛下の左側を、自然なかたちでキープされています。それが非常に美しい。
全身全霊で天皇陛下を支えることに徹していらっしゃるというのが、手に取るように感じられるんですよね。お気持ちが態度に表れているんでしょう。
–天皇陛下を支えるといえば、時にはショッキングな事件も……。
里岡 はい。1992年に山形で催された「べにばな国体」の開会式で、天皇陛下がお言葉を述べられている時に、乱入してきた暴漢が、ロイヤルボックスに向かって発炎筒を投げつけるというショッキングな事件がありました。あの時も、とっさに皇后陛下がお手を天皇陛下の前に差し出された。身をていして天皇陛下を守ろうとされたんですよね。
–皇后陛下のお持ちものやお召しものは、どういった感じでしたか?
里岡 いいものを長く愛用されている印象ですね。バッグにしても靴にしても、手入れの行き届いているものをよく拝見しました。革製品などは、磨けば傷のところに色が入りますよね? そういう跡が見受けられたので、きちんと手入れをされて長くお使いなんだなと思いました。
イヤリングも、涙型の大きめの真珠のものを、よくおつけになられていますが、ご自分のお好きなものを、ずっと大切にして使っていかれたいのかと。そういうところに好感を抱いてしまいますね。素敵だな、賢いなって。知性を感じますね。
『「また会いたい!」と言われる女(ひと)の 気くばりのルール』 気くばりができる人は、「気づける」人です。 実際にどのように考えて動けば、押しつけがましくなく爽やかに気が利く人と思われるようになるのか、気くばりの基本から実践までを元トップCAが教える。
『誰からも好かれる女(ひと)の 人と運を引き寄せる習慣』 「気くばり」本の里岡さんが、トップCAになるまでに心がけてきた仕事の習慣や、空の上・多彩な交流の中で出会った一流の人の一流たる言動を彼女ならではの柔らかな視点で説く。