生物が進化しているのは、形ではなく、形作りであることが明らかになってきているという。これはどういうことなのか。
学生時代から一貫して脊椎動物の付属肢の発生・再生・進化の研究を行っている東北大学大学院生命科学研究科教授の田村宏治氏が、進化発生学をもとに、動物がどうやって進化を続けてきたのかを分かりやすく解説するのが、本書『進化の謎をとく発生学: 恐竜も鳥エンハンサーを使っていたか』(田村宏治著、岩波書店刊)だ。
「進化」とは結局何なのか
そもそも生物、動物とは何なのか。生物は生きている物と書くので、生きているものを生物と呼べばいいが、生きていることを定義することは難しい。本書では、生物を「細胞でできているもの」としている。
細胞でできているもの、すなわち生物は地球上に何千万種類もいるが、2種類に分けられる。ひとつの細胞でひとつの個体が成り立っている単細胞生物とひとつの個体がたくさんの細胞から成り立っている多細胞生物だ。ヒト一個体の細胞数はおよそ37兆個と概算されている。
動物の特徴は、エサを取ること。ヒトの場合、食べたエサは胃や腸の中で細かく糖質やアミノ酸や脂質にまで分解されて体内に吸収される。細胞は、エサの中に含まれる糖質を主に使って水と酸素を加えて化学反応を起こし、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を作る。たくさんATPを作ってはそれを分解し、分解するときに生じるエネルギーを使って細胞は活動しているのだ。
動物の体のどこかにATPをつくる場所があるわけではなく、動物個体を成り立たせているすべての細胞がATPを持っている。なので、それぞれの細胞に糖質と水と酸素が供給されていないと細胞は活動できず、結果として動物は動くことができない。要するに、動物はすごい数の細胞でできているけれど、一定の仕組みで動いているということだ。
進化する、というと、進化前の初期形態だった動物がしばらくすると違う形になって、条件がそろうとさらに変形して最終形態になった、というようなことを想像するだろう。チョウやカエルのように生きている間にかなり劇的に形態を変える動物もいるが、自らが変形して別の動物に進化することはない。
動物は生まれるときにその形を作るので、進化のカギは動物の生まれ方にある。動物の進化を発生過程に形づくりの変化としてとらえる「進化発生学」を本書から学んでみてはどうだろう。発生学から動物の進化を見ることで、動物がどのように進化をしてきたかがわかるはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。