漢字に関する政策作り、辞書の編纂などに関わっている漢字学者の笹原宏之氏。子供の頃から「漢字ハカセ」と呼ばれ、好きなことを仕事にした笹原氏だが、どのように漢字学者になったのか。
『漢字ハカセ、研究者になる』(笹原宏之著、岩波書店刊)では、早稲田大学社会科学総合学術院教授の笹原宏之氏が、さまざまな当て字を得意になって書いていた小学校時代、秋桜をコスモスと読むのが許せなかった中学時代、進路に悩んだ高校時代、地名漢字を調べに出かけた現地調査など、漢字にまつわるエピソードを交えながら、漢字の魅力や研究者への道のりを綴る。
「タコ」の文字がきっかけに 漢字博士が学者を目指したきっかけ
笹原氏が漢字の研究者になる第一歩となったのが、小学生のときに偶然出会った漢和辞典だという。小学5年生のある日、クラスメイトのS君が転校生のM君に「鮹」という字を書いて見せ、「これ、なんて読むか知っている?」と訪ねていた。笹原氏は、父が子供の頃に読んでいた『蛸の八ちゃん』という漫画の復刻版を父に見せてもらっていた。『蛸の八ちゃん』の「蛸」にはふりがなで「たこ」とあったので「あのタコのことだろう。でも、タコは虫偏じゃなかったかな?」と意外に感じる。
転校生が「知らない」と答えると、S君は「タコって読むんだ。『カンワジテン』に載っているよ」と答えていた。そこで笹原氏は漢和辞典という辞典があることを知り、自宅の兄の部屋にあった漢和辞典を開いてみる。すると、「蛸」も「鮹」もタコとして両方載っており、どちらでもいいということを知る。
これが笹原氏の人生を決定づけた漢和辞典との運命的な出会いだったという。さまざまなサカナの名前が旁(つくり)によって変わる魚偏の字など、面白く、ワクワクしながら見つめているうちに漢字に興味を持つようになったのだ。
ちなみに、「蛸」と「鮹」の漢字の由来は、中国では「蛸」は脚の長いクモの「アシタカグモ(あるいはアシナガグモ)」を表し、それに似ていて海に住むタコを「海蛸(鮹)子」と呼んだものと考えられる。そこから「蛸」や「鮹」が、単独でもタコを指すようになったのだ。
子供のときに偶然、漢和辞典と出会い、漢字が好きになり、趣味のように勉強を続ける中で次第に漢字そのものだけでなく、漢字の多様なダイナミクスやメカニズム、本質や背景まで解明したくなり研究を進めたという。大人になった現在も好きな漢字の研究を続けている笹原氏が、どのように夢や目標を実現させたのか、を読むことができる1冊だ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。