あなたは「迷信」というものを信じているだろうか。何かをすると、災厄が降りかかってくる。何かをすると、良い結果が返って来る。
例えば「雨ごいの儀式」は世界中で見ることができる。
これは雨が降ってほしいときに、過去に雨が降った直前に何があったかを考え、それを再現する。時には「雨ごい師」を呼んだりする。
「雨ごいの儀式」は雨が降るまで続けられるので、いつかは雨が降るのだが、実際は天気に人間が干渉しようがないはずだ。だが、雨が降ると「あの雨ごい師は本物だ」と信じてしまう。
こうした、本来関係のない2つの出来事を結び付けて考えることを「錯誤相関」という。
人間は強い感情に引っ張られてしまう
『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?』(サトウマイ著、総合法令出版刊)では、こうした「意思決定バイアス」をはじめとした、統計学の基礎を分かりやすく説明する一冊だ。
話を「錯誤相関」に戻そう。
なぜ、関係ないものを結び付けてしまうのかというと、「普段と違うことや強く感情が動いたことをより強く記憶する」という記憶のメカニズムが働いているからである。
「雨ごいの儀式」の場合、「雨が降らなくて困っている」という強い感情がある。それを助けてくれたのだから、印象に残るのは当然だろう。
また、「傘を忘れた日に限って雨が降る」ということを経験したことはないだろうか。これも錯誤相関の一つの例。「雨に打たれる」という強い感情的体験が伴い、「傘を忘れる」と「雨に打たれる」が結びついてしまうようになる。
著者は「人間は、本能的に科学的ではない」と説明する。だから、自分自身が錯誤相関していることもあるだろうし、他者が錯誤相関をしているときに、それを訂正するのは大変な労力がいるのだ。
途中で「つまらない」と思った映画を観続けるべきか?
私たちは世界をあるがままに見ているわけではなく、誰もが自分の色眼鏡を通して見ている。そして、その色眼鏡によって悪い結果を及ぼしているものを「認知の歪み」や「バイアス」というと著者は述べる。
お金を払って映画を観ているときに、途中で「これはちょっとつまらないな…」と思っても、大半はそのまま見続けてしまうのではないか。これは「お金を払ったのだから、元を取らないといけない」という心理が働くからだ。これを「サンクコストバイアス」と呼ぶ。
しかし、著者は「お金を払っていたとしても、つまらない映画はすぐに観るのを止めよう」とアドバイスする。これは投資の世界でいうところの「損切り」ができていない状態だからだ。負け続けていても「そのうち上がるはず」と株を保有し続け、結局大損してしまう、というわけだ。
つまらない映画を観続けて大切な時間を費やすよりも、別の有意義なことをやったほうがいい。バイアスに囚われないようにするには、そう考えることが大切だ。
◇
本書では「大数の法則」「標準偏差とリスク」「相関と因果関係」といった統計学のトピックを、身近で分かりやすい事例とともに解説している。
統計学の知識はビジネスで成功するためにも必要になる。ビジネスにおいて「データ」はなくてはならないものだ。データを通して得られた示唆から戦略を立案し、意思決定を行う。だからこそ、「データ」やそれの元になる「数字」との向き合い方が問われる。
「不確かな現実」を正しく判断するためにも、本書を通してバイアスに左右されにくい頭をつくっていってほしい。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。