一方で、アベノミクスによる金融・財政政策だけでは景気は回復せず、「国民負担増で狙い撃ちされるのはサラリーマンばかり」とファイナンシャル・プランナーの小山信康氏は警鐘を鳴らす。
会社員の場合、源泉徴収のかたちで給料から天引きされるため、あまり意識しないままに払っていることが多い税金。これからは、自らの資金管理を強化するためにも、税金の種類や仕組みを理解しておく必要があるだろう。
2014年4月に、8%に引き上げられる消費税。さらに15年には10%にまで上がり、相続税の課税範囲の拡大もされる。12年度には子ども手当が児童手当に変わって実質的に支給額が減り、所得制限も加えられるようになった。東日本大震災後には復興特別税という名で所得税が2.1%上乗せされている。また年金は今後、支給額の引き下げが続き、逆に保険料率は毎年引き上げられる。
私たちの将来を暗くするような政策ばかり打ち出され続けている。とはいえ、「全国民が平等に負担する」ということであれば、我慢せざるを得ないのかもしれない。
●負担が大きいのはサラリーマン
しかし実際には、なかなか平等とはいえない。
「例えば公的年金の支給開始年齢の引き上げは、年齢で区切るので、平等といえば平等です。しかし、個人事業主のように国民年金しか加入していない人は、基礎年金の支給額が減っていくだけですが、元サラリーマンの人たちは、厚生年金も減少していきます。払ってきた保険料が無駄になる分は、当然後者のほうが大きくなります」(前出・小山氏)
では、税金に関してはどうだろうか? 所得税率に自営業とサラリーマンの違いはない。どちらも平等の負担になりそうだが。
「かつては、配偶者が専業主婦であれば、配偶者控除と配偶者特別控除は同時に適用することができました。そのため、最大76万円の控除が受けられたのです。しかし現在は、配偶者の年収が103万円以内の場合でも配偶者控除のみの適用となり、控除額が少なくなっています。
自営業者の場合、必要経費を多額に計上することで課税所得額が低く抑えられ、負担する所得税率も低くなる傾向があります。控除額が減っても、サラリーマンよりは影響が小さいのです」(同)
給与所得控除はじめ、さまざまな税制上の課税控除額が縮小されることも予想される。サラリーマンは、これらのニュースに敏感となる必要がありそうだ。
●サラリーマンの負担が増える理由
年金や税金で狙い撃ちが続くサラリーマン。なぜそんなに政府はサラリーマンをターゲットにするのか?
「それは簡単な話です。サラリーマンが選挙を手伝わないからです」(同)
確かに、筆者が衆議院議員の秘書を務めていた頃、いくつもの選挙戦を経験したが、選挙事務所に来るのは、町内会の自営業者やお年寄りが中心。ボランティアの学生などもいた一方で、サラリーマンは土日に何人か手伝いに来る程度だった。しかし、選挙を手伝うのと負担増にどんな関係があるのか?
「候補者の立場になればわかると思います。道ですれ違ったときに『投票したよ』と一声かけるだけのサラリーマンと、人生をかけた戦いの中で汗水たらして選挙を手伝ってくれる自営業者、どちらを優先した政策を進めるかとなれば、答えは明白でしょう」(同)
●自営業者は消費増税で収入が増える?
これまで、多くの政策でサラリーマンが狙い撃ちされてきた。しかし、来年以降の消費税増税では、さすがに自営業者は売上減に苦しむと思われる。このあたりはどうだろうか?
「確かに、消費税率アップに合わせて値段を上げれば、売り上げが減少してしまうかもしれません。しかし、そもそも課税売上高が1000万円以下であれば、消費税を納税しなくていいんです。つまり、他の課税事業者に合わせて税率増加分の値上げを行った場合、その分だけ粗利が増えるんです。小さな事業者にとって、消費増税は意外とメリットがあるんですよ」(同)
●上手な働き方とは?
正規雇用のサラリーマンは、地位の安定性から社会の勝ち組といわれることもある。しかし、このまま税金等の負担が増していけば、いつかその優位性が失われてしまうかもしれない。年収500万円で比べた場合、「自営業者よりもサラリーマンのほうが、25万円ほど税負担が重い」(同)という。これらの現実を見極め、サラリーマンも政治に強い声をあげることが必要になるだろう。
(文=尾藤克之)
●尾藤克之(びとう・かつゆき)
東京都出身。経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。人間の内面にフォーカスしたEQメソッド導入に定評。リスクマネジメント協会「正会員認定資格HCRM」、ツヴァイ「結婚EQ診断」監修等の実績。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)など多数。