IT技術が普及し、一時代前に比べて起業することの敷居はだいぶ低くなった。「やりたいことをして生きたい」「社会に貢献していることが見える仕事がしたい」など、自分の目標や夢、希望するライフスタイルを実現するために、起業という選択をする人もいる。
しかし、1年間で誕生した会社の約半分がつぶれ、3年後にはさらにその半分、さらに10年経ったときに残っている企業は6社程度という話もあるほど、ビジネスの世界は厳しいものだ。
『ベンチャーズ☆ハイ』(クレイシア出版/刊)は、堀江貴文氏が社長だった頃のライブドアの社長室にいたことでも知られ、自身も月商1億円のベンチャー企業を立ち上げた渡邊健太郎氏が執筆した、事実に基づいて書かれた“起業小説”だ。
大学生の伊部は、投資家・横田からの出資を受け、仲間たちと学生ベンチャーを立ち上げる。創意工夫の甲斐もあり、会社は順風満帆に成長していくものの、一方で雲行きはだんだんとあやしくなっていき…。「やりたいことをやる」「社会に貢献する」という理念の裏に隠れた、起業の苦しい現実が描かれている。
■起業は孤独との戦いである
パソコン教室の集客のためにビラを配り続ける伊部。しかし、なかなか人は集まらず、出資者である横田からは「タイムイズマネーや」とハッパをかけられる。さらに、ビラを配っていると自転車に乗った警察官に注意をされ、自分の配ったビラが無残にも捨てられている現実を見る。
何もかもが上手くいかないとき、人は孤独を感じるものだが、経営者たちは人一倍、その孤独を感じているのではないだろうか。伊部は一人で涙を流し、自分が学生ベンチャーを立ち上げようとした理由を思い出す。それは、「寂しくなりたくない」ということだった。ところが、伊部の周りには誰もいない。たった一人で苦境を克服しなければいけない。頑張れば頑張るほど、どんどん孤独になっていく。そんな自分に不憫ささえ、伊部は感じるのだった。
起業とは孤独と戦うこと。起業家を志望している人は、その孤独と向き合うことができるだろうか?
■起業は“楽しいもの”か?
投資家の横田と決別した伊部。その理由は、横田があまりにも伊部たちの事業に口を挟むようになったからだった。しかし、横田も当然のことをしていた。パソコン教室の事業はマスコミへの露出もあり、順調に成長していた。しかし、その分、人件費がかさんで利益が出ない状態になっていたのだ。
伊部と共同経営者である山田、斉藤は「どうすれば最高のビジネスが出来るか?」「どうすればお客様が笑顔になってくれるか?」ということを来る日も来る日も話し合ってきた。そんな中での横田との決別。そして、横田に恩義を感じていた斉藤が会社から離脱してしまう。
利益をあげるために、やりたくない仕事もしなければいけない。起業とは楽しいものか? 八方ふさがりになった伊部は精神的に追い詰められる。そして、ガールフレンドの由紀に「楽しくなさそうな顔をしている」と指摘され、隠し続けていた胸中を吐露するのだった。
伊部とその仲間たちの前には、いくつもの試練が立ちはだかり、彼らは途方に暮れながら、それでも前に進もうとする。そんな彼らの姿は「立ち向かう」というよりも「這いつくばってでも、しがみついていく」という表現がしっくりくるかもしれない。本作はそんな起業の現実が描かれている。
では、どうして伊部たちはベンチャー企業を畳むことをしなかったのか、そして、ベンチャー企業の楽しさの本質とは何か、その答えもしっかりと述べられている。険しい道があったとしても、前に進む。その先に自分たちが思い描いた未来があるのだ。
本書を読むと、起業家たちが「ドライバーズ・ハイ」ならぬ「ベンチャーズ・ハイ」になる理由が分かるはずだ。
(新刊JP編集部)
関連記事
・人はどうして起業をするのか?
・経営者にとって「若さ」はマイナス?
・一つの分野を極める人は飽きっぽい?
・起業の現実は“想像よりも生々しく、厳しい”
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。