そこに大きく横たわるのは、日本企業から派遣されている駐在員と現地採用社員の格差だ。
まず、明らかに違うのは給与。2倍で済めば、まだましと考えたほうがいい。ある企業の海外在住員は、その実情を次のように明かす。
「アメリカやヨーロッパなど先進国では、現地採用社員と駐在員の給料の格差はあまりないですが、発展途上国や新興国の場合は、かなり差が出ます。日本では考えられないですが、インフレが起こっている新興国では、比例して駐在員の給与も上昇します。私がいる国では年間10%給与が上がりました。現地採用社員に対してはそうもいかず、差が徐々に広がっていくのです。2倍以上は確実で、時には5倍以上の差がつくこともあります」
国にもよるが、現地採用社員の平均給与は8~20万円程度。駐在員の場合、日本の基本給に加えて海外手当などが出るが、現地採用社員の場合はそのような手当はない。加えて、年金や雇用保険などの福利厚生も整っていない場合が多い。
「また、運転手付きの車がつくかどうか、そしてセキュリティの充実した家が用意されるかどうかも大きな違いです。現地採用社員は、不便な地やシェアハウスに住まされたり、運転手付きの車を手配されなかったりする場合が多い。特に現地採用を希望するのは女性の場合が多いのですが、女性が新興国において車なしで街中を歩いたり、セキュリティ不備な家に住むのはかなり危険です。実際に私の身近にも、盗難などの被害に遭った人がいます」(同)
●仕事内容にも大きな差
そして最も格差を感じるのが、仕事内容の違いだ。駐在員は現地の店舗を任され、大きなプロジェクトを動かす一方、現地採用社員はデータ入力など、事務作業のルーティンワークが多い。
「駐在員は一つの店舗を任されるので、現地の部下を持ち、何もないところからつくり上げていくという、かなり醍醐味のある仕事をすることができます。一方、現地採用社員が責任のある仕事を任されることは少ないのです」(同)
仕事と給与に格差があるばかりではなく、格差は現地の日本人コミュニティの間でも如実に表れ、あらためて現地採用社員の身分を知ることになる。
「現地で初めて会う人たちに対しては、現地採用かどうかを確認します。プライベートで行くお店も違うのですが、現地採用の人と一緒に飲む時は、私たち駐在員が支払うようにしています。中には、駐在員に出してもらうのが当たり前と思っている人もいます」(同)
現地採用の中には、体調を崩した時に会社のフォローを受けられず、日本に帰国する人も少なからずいるという。
「現地採用社員が病気になった時のサポートは、まったくありません。即、失業です。これが一番大きいのではないでしょうか。夢を持って自ら来ているのに、体調不良で泣く泣く帰国される人をたくさん見てきました。駐在員は行く国によっては、食材も満足に調達できないため、わざわざ近隣の国に買い出しに行く特別出張手当などもある。それだけ海外生活は厳しいのです」(同)
どこへ、なんのために行くか、その国を十分見極めるのも大事。憧れだけで行くと、結果を残すこともできず、日本社会への復帰は遠回りになる。キャリアアップするつもりが、逆にキャリアダウンとなり、人生を棒に振ることになりかねない。
(文=編集部)