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コロナ感染・阪神藤波の対応に称賛、病院で誤った診断→自ら疑い別の病院で受診し判明

文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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藤波晋太郎投手(阪神タイガースの公式サイトより)

 阪神タイガース藤波晋太郎投手(25)が新型コロナウイルスに感染した。プロ野球選手で初、のみならず日本の著名スポーツ選手としても第1号となり、4月24日の開幕を目指していたセ・パ両リーグに衝撃が走った。そんななか、感染した藤波の対応には称賛の声が上がっている。

 阪神球団によると、藤波は3月24日にコーヒーやワインの匂いが全然わからないことに気づき耳鼻咽喉科に行ったが「季節性のアレルギー」と診断された。発熱や咳などはなかったが嗅覚異常の症状が一向に改善しないためチームドクターと相談して別の耳鼻咽喉科を受診した。そこで「新型コロナウイルスの感染の可能性がある」と指摘された。保健所への連絡でPCR検査を受けると陽性と判明した。

 球団側が藤波に電話で経緯を聴取すると、3月14日に藤波と食事を共にした長坂拳也捕手(25)と伊藤隼太外野手(30)の2人にも「みそ汁の味がしない」などと、味覚障害が起きていることが判明した。2人も咳や発熱はなかった。藤波について当初、球団は「風邪の症状もないし、陰性でしょう」と期待していた。それが暗転した。

 感染発覚でまず、西宮市の鳴尾浜球場(二軍球場)で予定されていたソフトバンクとの練習試合は中止となった。甲子園球場では27日昼頃から白い防護服姿の人たちが球団事務所も含めて消毒を行った。さらに選手や矢野燿大監督をはじめ、コーチ、球団職員には1週間の自宅待機を命じ、球団事務所も閉鎖された。

 藤波ら感染した3選手は他のチ―ムメイト4人と共に、飲食店ではなく球団と無関係の人の自宅で飲食していた。会食者は合計12人だった。3選手は現在、入院中だが大事に至る心配はないという。

 27日午後1時からマスク姿で緊急会見した揚塩健治球団社長は「プロ野球で初めて感染者が出たことを深く重く受け止めている」「3名と複数出たこともを重く受け止めている」などと詫びたうえ、「今から考えると外出禁止というかたちで臨んでいたらよかった」と話した。

藤波、日頃の健康管理と熱心な情報収集の賜物

 日本プロ野球機構(NPB)はJリーグと共同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を立ち上げ、選手らが37度5分以上の熱が続いた時はチームドクターに報告することなどを決めてきた。しかし、咳や発熱もなく、「臭いがしない」というだけの項目は3月12日に発表された「意見書」にはなかった。

 匂いを感じないくらいなら鈍い人ならしばらく気づかないし、「一時的だろう」とさして気にしない人もいよう。それでもすぐに医者に行った藤波。揚塩社長によると藤波は「匂いを感じないことも新型コロナウイルスの症状にあることを知ってもらいたい」と実名公表することを球団側に強く訴えたという。

 英国や米国、ドイツなどの研究では無嗅覚や無味覚の症状が出ることがあることが確認されているという。日本でも少ないながら報じられてはいたが、広くは知られていなかった。藤波は著名人である自分が名乗り出てニュースになることで、感染にいち早く気づく人が増えてほしいと願ったのだ。 

「こんな時に大勢で食事しとるからや」と言う手厳しい虎ファンもいるが、感染源とみられる会食はまだ、不要の外出自粛要請などが出る前だった。

 こうしたなかで自ら感染の事実を公表した藤波の行動に、称賛が巻き起こっている。米大リーグ、シカゴ・カブスのダルビッシュ有は「嗅覚がおかしいってだけで名乗り出た藤浪選手はすごい」「情報収集している証拠やし、自分の身体に敏感な証拠。関係者の感染リスクもかなり抑えられたはず」と、いち早くTwitterで称えた。

 3月27日夕方の大阪朝日放送(ABC)の情報番組では、芸能ジャーナリストの井上公造氏が「こんな病状でもコロナウイルスになることがある、ということを知らせてくれた。勇気ある行動」と称賛していた。タレントの江口ともみさんは「ちょっと(規制が)緩い感じだった中、若い人への警鐘になる」などと話した。在阪局の報道はおしなべて藤波を称賛したようだ。

 藤波は197cm、体重100キロの本格派右腕。大阪桐蔭高校では2012年の甲子園春夏連覇の立役者。2013年、鳴り物入りでタイガース入りすると1年目から10勝するなど活躍を見せ、エースの座を射止めた。しかし、2015年の14勝をピークに成績は下降、再起を期した昨年は、当番試合はたった1試合で1勝もできなかった。エースに復活できるか「元エース」で終わるか、今季はまさに正念場を迎えていた。そんな中での「感染告白」だった。

 神戸市のサンテレビジョンの永谷和雄記者は「藤波選手はちゃんと健康管理もしているから早く感染が判明し、周囲への影響も最低限に抑えられたのでは。本当に根から真面目な男ですから、今シーズンはがんばって復活してほしい」と話す。27日、NPBの井原敦事務局長は予定通りの4月24日の開幕を明かした。がんばれ、晋太郎。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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