そんな窮状を尻目に、市場関係者では、シャープの転換社債(CB)【註1】に注目が集まっている。
シャープのCB20回債(13年9月末償還)の価格は、10月18日に年初来安値の43円まで急落した。今年2月1日の年初来高値である98円90銭から半値以下まで売り込まれた格好だ。
きっかけは、格付け会社R&Iが10月15日にシャープの発行体格付けをBBBからBB+へ2段階、長期債務格付けをBBBからBBに3段階引き下げ、さらに格下げ方向でレーティング・モニターを継続すると発表したことである。また、シャープの格付けについては、米大手格付け機関ムーディーズが、9月5日に短期格付けを投機的水準の「ノットプライム」に引き下げたのに続き、8月末にはスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が長期格付けを2段階引下げ、BB+としていた。1年前にはAA-という高格付けを取得していただけに、この間のシャープの信用力の低下は危機的な状況といわざるを得ない。
R&IとS&Pという日米の格付け機関が、シャープの格付けを投資不適格なジャンク水準に引き下げたことで、年金基金など投資家はシャープの株や社債をポートフォリオから外す動きが顕在化し、シャープのCB20回債は、連日ストップ安を演じた。
●銀行から工場も担保に押さえられ…
また、CB急落の要因には、シャープの取引銀行が融資の担保として同社の工場などの資産を押さえたことが影響している。「これでシャープがもし破綻することになれば、取引銀行の融資の返済が優先され、社債権者の回収率が低下することは避けられない。そこに格付けの低下が追い打ちをかけた」(市場関係者)と指摘される。
実際、シャープの倒産確率を売買するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料率は一時5300BPS(ベーシス・ポイント、53%)まで上昇した。もはやシャープの株やCBはギャンブルの領域に入ったと言っても過言ではないだろう。
だが、来年9月末までシャープが倒産しなければ、同転換社債は100円で償還される。最終的な終利は100%を超えていた。シャープの将来に期待するのであれば、これ以上ない投資対象とも言える。投資の成否は、シャープの資本提携と収益の源泉となる売り上げの拡大シナリオ、そして経営陣が描く12年度下期の営業黒字化、13年度の当期損益の黒字化の確実性にかかっている。
●複数の大手IT企業と長期供給契約を目指し調整中
そこで注目されるのは、シャープが米国の大手IT企業など複数社と最新の中小型液晶パネルの長期供給契約を結ぶ方向で調整していること。供給先としては、米デル、米ヒューレット・パッカード、中国のレノボ・グループの名前が挙がっている。この米中3社は「ウルトラブック」と呼ばれる次世代の超薄型ノートパソコンに、シャープの最新の超小型液晶パネル「IGZO(イグゾー)」を使う見通しで、シャープは今年度から供給を始めたい考え。
また、出資先についても、シャープ迷走の主因となっている台湾の鴻海精密工業のみならず、ヒューレット・パッカードや半導体大手のインテル、IT大手のマイクロソフトやグーグル、アップルなど複数の有力企業から出資を目指すことが明らかになっている。
鍵は超小型液晶パネル「IGZO」の競争力にかかっているが、電機メーカーの開発者によると、「シャープのイグゾーは素晴らしい。5インチの超小型液晶パネルは驚異的な画像の鮮明さを誇る。内外のIT企業は、こぞって触手を伸ばすはずだ」という。