実際に事件の現場となった桜宮高校は、現在どのような状況なのだろうか?
桜宮高校に通う子を持つ保護者の話によると、事件後の1月9日午後7時に、同校にて保護者会が行われた。この会では、佐藤芳弘校長による謝罪、事件の経緯などが説明されたが、『学校としては反省する』とは言うが、具体的な話に触れることはなかった」という。
こうした背景について、同校の保護者や普通科OBらの話を総合すると、「バスケットボール部は、強豪で桜宮高校内でも別格扱い。なので生徒が自殺しても、当初、学校側は顧問教諭にできるだけ傷をつけず、自殺した生徒ひとりの問題としたいのかなと思われる節もあった」と話す。
事実、一連の報道が伝えられてから、ある同校教諭が「自殺の原因が本当に顧問教諭の体罰によるものかどうか、因果関係はまだよくわからない。遺書とされるものや報道をそのまま鵜呑みにはできない」と保護者や生徒に話したという声もあったからだ。
加えて、すでに各種報道でも伝えられているように、桜宮高校にとってバスケットボール部顧問教諭は、校長でも一目置く存在であった。通常10年以内に転勤する教諭職にもかかわらず18年も同校で勤続していたからだ。そのため誰も本人に意見など言える状態ではなかったという。ある普通科OBに至っては「生徒が自殺して、ようやく(バスケットボール部顧問教諭に)モノが言える環境ができた」と話す。それだけ同校では顧問教諭の存在感が大きかったということである。
●顧問教諭をかばう声も
一方で、この顧問教諭を「熱血漢」としてかばう、教え子、保護者もいる。ある体育系学科OBは「(顧問教諭は)手を上げることもあるけれど、ちゃんとフォローしてくれた。暴力のための暴力ではなかった。また遠くから通学している子には、奥さんに弁当を作らせ、それを配ったりもしていたと聞く。マスコミは顧問の先生のことを一方的に叩きすぎ。スポーツの世界をわかっていない」と話す。
こうした顧問教諭への擁護論が出ていることについて、橋下市長は記者会見などで「狂っている」と一蹴、入試中止など、一連の対応は自らの指示を押し通した格好での決着をみた。
桜宮高校事件に関する橋下市長の一連の対応をはじめとする、議員、公務員を「悪役」としてやり玉に挙げ、有権者の耳目を引く手法は、みずからの人気に勢いがあるときは非常に大きな力を発揮する。だが、その人気に陰りが見えてきたときにこれを行うと、民意は大きく離れる危険性も孕む。しかし、こうした心配は杞憂にすぎないという声もある。
「橋下市長は、市役所内、あるいは記者会見前など、普段はとても物静かで無口な人です。しかしテレビカメラの前、議会といった公の場では、声を大きくして話す。すべての行動が緻密な計算のもとに練られたものです。橋下市長自身の演出による作られた『橋下徹像』というイメージが、世間で一人歩きしている感があります」(在阪準キー局放送記者・A氏)
●橋下市長、参議院選出馬へのサインか?
関西地区にある出先機関に勤める中央官庁キャリア官僚・B氏も、次のように同調する。
「これまでの橋下市長の競争主義、ノルマ制度、コストカットなどの行政改革は、すべて計算ずくで行われている。府や市という役所のシステムを一度ぶっ壊して、素早い政策実現ができる体制作りを整えることのみに主眼を置いているのではないか。取りざたされている今夏の参院選出馬も、『二院制政治をぶっ壊して、より素早い政策実現ができるシステム作り』を目指すのに、新たなる仕事を見いだしたとみれば、どこか納得がいく。霞ヶ関(中央官庁)では、もう橋下市長が参院議員となり、日本維新の会代表として、国政に本腰を入れるという想定をしている。すでに各省庁では、橋下市長が国政に進出した場合の省への影響について、研究している」