シャープ、出資受けるサムスンへ過去に技術漏洩の疑い…元副社長が明かす
PCデビューは30年前に発売されたシャープのX1という、筋金入りのデジタル中毒であるITライターの柳谷智宣氏。日々、最新デジタルガジェットやウェブサービスを手当たり次第に使い込んでいる。そんな柳谷氏が、気になる今注目のITトレンドの裏側とこれからを解説する。
3月6日、サムスン電子ジャパンがシャープに103億円の出資をすることが発表された。出資後の議決権ベースで、約3%の新株式が発行される。その代わりに、シャープはサムスン電子への液晶パネル供給を強化する。
シャープは昨年3月、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)から約660億円の出資を受けることで合意した。しかし、その後のシャープの株価暴落で鴻海側が値切り、交渉は難航し続けている。8日付台湾の現地紙は、郭台銘・鴻海会長が週内にもシャープ幹部と会談すると報じているが、つい先日の3月5日、郭会長はシャープ幹部と会談を行う予定で来日までしていたのに、直前になってキャンセルされるなど、見通しは暗い。
一時期、シャープの株価が150円をつけたタイミングで出資条件を見直したくなるのは理解できるが、現在はアベノミクス効果で株価は310円を超えている。今月下旬に迫る回答期限までに、うまく話が進むか暗雲が立ち込める。
昨年末に、シャープは米半導体大手クアルコムから約100億円の出資を受け入れ、すでに半分ほどを振り込まれているが、業績再建には足りない。しかも、頼りにしているアップルからの液晶受注も、今年1月からの減産によるあおりを受けていた。そんな中、サムスンが名乗りを上げたのだ。議決権ベースで約3%の新株式発行となると、サムスンはシャープの5番目の大株主となる。1位から4位は、生命保険相互会社と銀行なので、金融機関以外では最大株主ということになる。
鴻海と組んで倒そうとしていたライバルからの出資を受け入れたとして、ネット上では「またもや、日本の技術が流出するのか」と嘆きのコメントが数多く見られる。シャープは公式発表では、「サムスンへの技術供与は行わない」としている。サムスンも、狙いは技術というよりも液晶パネルへの投資を抑えて、安定調達を実現したいというのが建前だ。
しかし、シャープ成長の立役者でもある元副社長の佐々木正氏は、「サムスンが技術を盗む」「昔、液晶の技術を教えてくれと言われて断ったら、シャープのキーマンを週末に韓国に連れて行って技術を盗んだ」と告白している(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/2012年7月28日号>記事『元シャープ副社長の佐々木正氏の回顧』より)。さらに、ネットの盛り上がりを受けて、シャープの公式Twitterアカウントでは、「(私のことは嫌いになっても…シャープの製品のことは嫌いにならないでください)」とつぶやいている。
シャープは相次ぐ出資で財務基盤を立て直し、再生できるのか。それとも、このまま迷走し、人材や技術の漏洩などが続き、衰退へ向かうのか。岐路に立たされている。
(文=柳谷智宣/ITライター)