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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第10回

行列店「俺のフレンチ」シリーズ、銀座へ集中出店する理由と“成功”戦略

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「俺のフレンチ」シリーズを展開する俺の株式会社のHPより
数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

俺のフレンチ」「俺のイタリアン」を運営する俺の株式会社の最新店舗「俺のやきとり 銀座9丁目」が、7月12日、東京・銀座に開店した。

「俺の」シリーズの業態は出現してまだ2年だが、早くもお店の前に長蛇の列ができる圧倒的な集客力を誇っている。ビジネスモデル的にいえば、ミシュランの星つきの高級店で活躍してきた料理人を起用し、「原価をじゃぶじゃぶ使ってください」と坂本孝社長自らが指示を出す通り最高級の食材を惜しげもなく使い、それを驚愕の低価格で提供するというのが「俺の」シリーズのビジネスコンセプトである。

 にもかかわらず事業として成立している理由は、高回転率にある。店内は基本立ち飲み形式で、顧客の回転は着席型のレストランよりも早い。しかも、驚愕の料理が驚愕の価格で供せられるという噂が噂を呼び、お店の前に行列が途切れることがないから、この種の業態としては異例の1日3.5回転という高回転が達成できる。結果、常識的な原価率は30%程度という飲食業界のセオリーを破って、60%台まで原価率が上がっても利益が生まれるという型破りのビジネスモデルが成立している。

 さてこの「俺の株式会社」のビジネス展開にはもうひとつ、経営学の基本に忠実な、ある方針が採用されている。経営学的にいえば、同社はウォルマートやスターバックスと同じ戦略を用いていることになる。

 それが「ドミナント戦略」という理論である。

 実は「俺のやきとり」の出店で、俺の株式会社の運営する店舗は、銀座8丁目近辺に合計8店舗が勢ぞろいすることになった。いつの間にか銀座8丁目は「俺の」シリーズだらけ、行列だらけになっている。

 これがドミナント戦略だ。ある地域で圧倒的な存在感=ドミナンス(圧倒性)を確立したら、次の地域へと侵攻していく。どの地域でドミナンスを狙うのがいいのかは、業態によってやり方が異なる。郊外店として発展するウォルマートの場合は、郡単位でドミナンスを確立しながらアメリカ全土に広がっていった。スターバックスは都市単位。シアトルでドミナンスを確立すると、次はシカゴ、さらにはバンクーバーと侵攻を広げていく。

●街単位でのドミナント戦略の優位点

 そして俺の株式会社の場合は、どうやら街単位でドミナンスを確立していく様子なのである。なぜ街単位がいいのか? 街単位でのドミナント戦略を採用すると、競争上優位になることが3つある。

 ・広告効果がよくなる
 ・出店効率がよくなる
 ・採用効率がよくなる

 これらの点は、スタバを考えるとわかりやすい。スタバは日本でも1000店舗まで増えてきたのだが、結果として近所にスタバが何店舗もあるから、わざわざ広告しなくても、お店の看板だけで十分なブランド広告効果が得られるようになる。

 スタバに押されて一等地の喫茶店が閉店すると、不動産屋は真っ先にスタバに「テナントが空きましたが、出店しませんか?」と声をかけるようになる。集客力のあるテナントは不動産価値を上げるため、賃貸料も優位に交渉ができるようになる。そして同じ地域に何店舗もあれば、アルバイトの配置もやりやすい。

「俺の」シリーズの場合、銀座に合計8店舗、「俺の」ブランドの店舗だけでも「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」「俺の割烹」「俺のやきとり」と6店舗が狭い地域に集中している。そのすべてに行列ができるという意味で広告効果も絶大なのだが、実は立地面でも銀座8丁目からドミナント戦略をスタートするというのは理にかなっている。なぜかというと、実は5年前にリクルートの本社が銀座8丁目から丸の内に移転したことが関係してくる。