アップルの植民地化する日本メーカー、支配されるキャリア…アップル依存の代償と実態
また、アップルはその秘密主義ゆえ、内側をなかなかかいま見られないことでも知られているが、膨大な関係者への取材により“アップルの実像”に迫った書籍『アップル帝国の正体』が7月に出版され、話題を呼んでいる。
今回は、本書の著者である森川潤氏と後藤直義氏に
「アップルの植民地化する日本企業」
「アップル依存が深刻化する日本メーカーの実態」
「アップルに手足をもぎ取られるキャリア」
「知られざるアップルのビジネスモデル」
「アップルに高まる“普通の会社化”懸念とこれから」
などについて聞いた。
–9月、ついにNTTドコモがiPhoneの販売を開始しましたが、その背景をどのようにお考えですか?
森川潤氏(以下、森川) 当初、ドコモがiPhoneの販売に踏み切れなかったのは、「iモード」を通じて構築してきた課金制度を維持し、しかも利益率を落とすことなく、いかにアップルと契約をするかということに固執していたからです。しかし、MNP (Mobile Number Portability:キャリア間の番号継続サービス)の影響もあり、iPhoneを販売するソフトバンクとauの契約者数が増え、販売していないドコモの契約者数が減っているという現実を受け、いつまでも固執できないと判断したからではないでしょうか。
加えて、アップル側の対応も変わってきていましたね。これまでアップルは、キャリアがアプリを通して課金するのを厳しく制限してきたのですが、ここにきてその制限がかなり緩くなってきているといわれています。例えば、日本ではauが2013年1月にiPhoneでもリリースした「うたパス」では、アップルID決済とキャリア決済の2つの決済方式から利用者が選べるようになっています。ドコモでも8月くらいにはiPhone向けのアプリをかなりつくり始めていて、その時点でiPhone販売に向けにかなり動いていたのは間違いないですね。
–ドコモに採用してもらうために、ソフトバンクやauに対してよりも、アップル側が条件面で折れた部分もあるのでしょうか?
森川 これまで、「世界の大きなキャリアでiPhoneを取り扱っていないのは、チャイナモバイル(中国移動通信)とドコモだけ」といわれ、ずっと注目されてきましたが、アップル側が折れた部分もあると思いますよ。ただ、はっきりしたことはわかりませんが、アップル側よりドコモ側が折れた部分のほうが多いのではないかと思います。それに、ドコモのiPhoneの価格を見る限り、アップルがドコモだけを価格面で特別待遇したという話はあり得ないと思います。
●アップルの植民地化する日本企業
–本書では、「日本のメーカーの間に、アップルの植民地化が進行している」と書かれていますが、どういう意味でしょうか?
後藤直義氏(以下、後藤) 企業間取引において、お互いの企業がパートナーなのか、あるいは上下関係なのか、いろいろな関係があると思いますが、その関係を決める重要な要素の一つは、お金です。
日本のメーカーとアップルの関係を見たときに、「日本の技術がアップルを下から支えている」、あるいは「日本の技術がなければiPhoneはつくれない」といわれ、日本のメーカーの立場がアップルより上だという見方をされることがあります。しかし、その関係をお金、つまり売上高という観点から見ると、アップルの12年度の売上高は約12兆円で利益は約3兆円と、地球上で最も儲かっている企業の一つとなっています。一方で、日本で最もアップルと関係の深いシャープは大赤字で、破綻懸念すらささやかれる状況です。ビジネスをしている双方がともに儲かる、いわゆるウイン・ウインの関係であればパートナーと呼べると思いますが、一方はこの世の春を謳歌し、一方は破綻寸前で地獄の淵を歩いているわけで、これが同じiPhoneをつくっている企業なのかということです。
少なくとも日本には200カ所以上のiPhone向けの工場がありますが、状況はどこも同じです。この状況を見て思ったのが、宗主国と植民地という関係、つまり宗主国がその植民地に対して行った搾取です。
–どうしてそのような関係になってしまったのですか?
後藤 アップルは、1982年にパソコン事業の不調からあわや倒産という危機に見舞われたのですが、一度は会社を追われたスティーブ・ジョブズが復帰した1997年以来、ジョブズは自らすべての開発に関わるというこだわりを持ち、そしてアートに対する造詣の深さと先見性などでアップルを牽引してきました。そして、今や時代の先導役となるまでに成長したのです。そのアップルに、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝など、かつては世界を席巻したいわゆる“日の丸メーカー”は大量の電子部品を供給しています。