今回のiPhone 5s/5cの発売で最大のトピックは言うまでもなく「NTTドコモの参入」だが、注目されているのは、NTTドコモが当初設定したiPhoneの端末代金。iPhone 5s/5cともに、「他の2社に比べて明らかに高いのでは?」という指摘が数多く上がったのだ。
たとえば、一括払いの金額で比較してみると、iPhone 5sの16GBモデルでは、KDDI(au)とソフトバンクモバイルが6万8,040円であるのに対して、NTTドコモは9万5,760円と3万円近く高い。iPhone 5cの16GBモデルでも、auとソフトバンクモバイルが5万2,920円であるのに対し、ドコモは8万5,680円。いずれの価格も、購入後24カ月間は端末代金相当分が割引になるので実質負担額はほぼゼロになるが、万が一中途解約して端末代金を精算することになった場合には、購入者に重いコスト負担が残ることになる。
この件については、20日の発売イベント後に記者会見をおこなったNTTドコモの加藤薫社長が、「ドコモプレミアクラブ」「ドコモビジネスプレミアクラブ」に加入し、メール配信「Myインフォメール」に登録(個人ユーザーの場合)することを条件に、一括購入時の機種代金を割り引くと発表した。このほか身銭をきるような各種料金キャンペーンプランなど、他2社と比較しても、かなりバタついている印象を受ける。
なぜ、ドコモだけこのような状況になってしまったのか。
その背景には、ドコモがアップルとの交渉の中で十分に折り合いをつけることができなかったのではないか、という声も通信業界内では囁かれている。実際に株式市場はこの点に敏感に反応しており、ドコモが今回のiPhone 5s/5cの価格を発表した翌週9月17日の株価は、発表日の9月13日と比べて約4,000円下落。これはドコモの発表内容に対する失望感によるものではないかとも考えられる。「王者ドコモはアップルに屈した」という評判の声が聞こえてきそうな値動きである。
実際、他社の状況を見てみると、ソフトバンク、auともに発表会などの場で「アップルとは良好な関係を築いている」とコメントしており、各種料金プランだけでなく国内向け機能(キャリアメールやコンテンツサービス)などについても、アップルとの情報交換を繰り返すことで十分な対応ができているようだ。その裏には販売面での重いコミットメントがあることは間違いないが、それでも両社はユーザー満足度を優先した取引をアップルとしているといえるのではないだろうか。一方ドコモは、キャリアメール(spモードメール)やビジュアルボイスメールなど、一部のコンテンツサービスの提供が10月以降にずれ込むなど端末の機能面に対する不安は否めない状況で、これもドコモとアップルが発表前に十分なコミュニケーションが取れなかったことを示しているといえるだろう。
●ネットワークにも懸念材料
また、現在大きな争点のひとつとなっているネットワークの観点でも、“プラチナ帯LTE”(800MHz周波数帯)対応を見越してネットワーク整備を進めてきたauが自信をみせる一方で、同じ周波数帯域を保有するも基地局数でauに圧倒的な差をつけられているドコモは、LTEネットワーク整備でも遅れを取っている印象が否めない。唯一、発売時点でプラチナLTEを展開できないソフトバンクからも、iPhoneにより急増するトラフィックにドコモが対応しきれるか懸念を示されている。
こうしたドコモのネットワーク品質に対する懸念はすでに現実のものとなっており、Engadget日本版、RBB TODAYなどデジタル機器専門メディアが行った速度調査では、軒並みドコモ版iPhoneがau、ソフトバンクの後塵を拝す結果に。ドコモは長年ネットワークへの信頼が高いイメージがあり、今回のiPhone発売に当たってもネットワーク品質に対して期待の声が上がっていたが、ネット上では「ドコモiPhoneのLTE、速度計測した。やっぱり、、、遅いね」といった声や、既存ユーザーからも「やっぱ都心ではドコモ遅い」「確かにXiのスピード遅いから(ドコモのiPhoneが遅いのは)当然の結果か」といった声も上がっている。ドコモにとっては、ユーザーの期待に応える品質の向上が急務だといえるだろう。
「ドコモがiPhoneを出した」というトピックだけが先行して多くの人の注目を集めているが、実際にユーザーの期待に応えるものなのだろうか。冒頭紹介した高額な端末価格は購入後のリスクとならないか。そして購入後に快適に使えるネットワークが提供されるのか。購入に際しては、どの通信キャリアを選択すべきか、今一度入念に情報を精査する必要があるといえよう。
(文=編集部)