ビジネスの決め手はコネとワイロ――これまで中国でのビジネス現場で囁かれてきた暗黙のルールだが、これを裏付け、日本企業を食い物にしている現実を明かすのは、『猛毒中国ビジネス 中国人OLは見た!』(張 益羽/講談社)だ。
同書は、日本の某中堅広告代理店で上海万博プロジェクトの最前線に立った中国人女性(著者)が遭遇したショッキングな体験を綴ったもので、日本企業の中国進出の30年は、ただ中国人に「喰われる」ばかりだったのではないか、という。
彼女の体験を基に、中国でのビジネスを見ると、「灰色収入」という名のワイロやキックバックの金額で決まる入札など、アンフェアな光景が広がっていた……。
●コンペを繰り返した揚げ句、アイデア盗用
まずは、プロジェクトのコンペの段階では無限コンペ地獄が待っている。世界中の広告代理店が優秀なチームを編成し、クリエイティブな企画案を提案したコンペだが、プレゼンの回数が多すぎる。
「プレゼンも無事終了。結果の連絡を待っていたら、2週間後、『2次プレゼンを行います。企画案をブラッシュアップし、また来てください』という知らせをもらいました。
1週間後ほぼ徹夜状態で、要求に従って企画書を再度つくり直し、上海に飛びました。(略)2次プレゼンでは、1次プレゼンの審査員とはまったく違うメンバーが出てきて、プレゼンを聞いていました。さすがにこれで決定するだろうと思っていましたが、10日後、意外にも3次プレゼンの知らせが届きました」
プレゼン費用と出張費はすべて持ち出しで経費が膨らみ、さらに3次プレゼンに参加すると、中国側から「案の方向性を修正してほしいのでもう少し上海に滞在してください」との依頼で、滞在を延長することになった。
すると、今度は軟禁生活が待っていた。
「朝8時半から会議室で待機です。しかし、会議の開始時刻も終了時刻も知らされません。中心人物であるトップは、そのスケジュールが流動的らしく、いつも急に会議室に入ってきて、会議をスタートします。(略)21時くらいにやっと解放されますが、ホテルに戻ってからは修正作業です。そして夜中でも電話がかかってきます。『今、トップから新しい構想が出たので、すぐ会いたい』と言われると、何時であってもすぐ行かなければなりません」
まったく出口の見えない毎日で、精神状態も限界に達したスタッフは日本に逃げ帰ることになった。結果は、コンペに出ていなかった中国企業が受注した。しかも、各国企業のプレゼン内容がパクられていたことが判明。つまり、プレゼンとは名ばかりで、無償でアイデア出しに参加させられていただけなのだ。
中国の、特に政府や行政機関が関わるコンペではプレゼンを重ね、なかなか結果を出さないことが多いが、その背景には内部の関係者の利権争いがあり、中国企業でも翻弄されているほどだという。
さらに国際的なプロジェクトとなれば、外国企業をコンペに参加させることで公平さを国内外にアピールするという狙いがある。それだけに余計に結論が出なくなり、最終的にはコネの強い中国企業による外国企業の魅力的なプランの盗用という結果になるのだ。
『猛毒中国ビジネス 中国人OLは見た!』 バックマージン、アイデア盗用、賄賂…。ありとあらゆる不正がまかり通るビジネス現場。日本企業の一員として最前線で働いてきた中国人女性が暴露する、中国ビジネスの奥底