●理不尽な条項に不払い・踏み倒し
もし、プレゼンに成功しても、次に待っているのは過酷な交渉、契約の現場だ。
契約交渉も丸一日かかり、先方は「こんな大企業と契約できるのは、大変光栄なことだよ」と反論ができないほど高圧的な態度で、強気に要求を突きつけてくるのだ。
契約の場では暗黙のルールがある。それは「お金を出したほうが強い。お金を出した側は、絶対的な権利を持っている」という中国の普遍的なルールで、このため、契約には理不尽な「覇権条項」を入れてくる。「覇権条項」とは、例えば次のようなものだ。
「業務がすべて完成してから、甲(発注側中国企業)は検査し、甲が問題ないと認めてから、支払い手続きに入る」
「当該プロジェクトのすべての権利は、甲が所有し、甲は、自らの需要や要求によって、変更や修正する権利を有す。乙(受注側外国企業)はこれについて異存がない」
こういった契約では、中国企業が一方的に「これは我々が求めているものではない」と判断すれば、1円も支払いをせずに強引な契約解除も可能になってしまうのだ。
●猛毒化する中国
また、もめた場合の裁判地だけは譲ってはならないと著者は指南する。裁判地が中国国内では、日本企業が勝つ可能性はほぼゼロ、公平な裁判を受けるためには裁判地はせめて第三国にすべきといわれている。
「よく選ばれる第三国はシンガポールです。理由は距離的に近く、英語が主要言語になっているうえ、政治や経済の関係性からみても、中国からの圧力が少ない国だからです。ただ、シンガポールで裁判を行う場合、裁判費用が相当かかりますので、企業に体力がない限り、この1回の裁判でかなり消耗してしまいます。実際はすでに半分負けているようなものです。それでも、なるべく中国国内を裁判地にせず、せめて香港を裁判地にしたほうがいいでしょう」
契約地獄の次は請求地獄だ。納品後に不払い・踏み倒しが待っている。中国国営企業でも、請求してから支払うまで最短で2~3カ月かかるという。
「中国企業、特に国営企業の中には、会社ぐるみで不払いを奨励しているところもあると聞いたことがあります。そういう会社では、買掛金を踏み倒すと財務担当者の成績が上がります。つまり、『支払わない』ということが能力として評価されるのです」
中国では拝金主義が優先し、手元にできるだけお金を抱え込もうとする。コネと交渉で、債権を回収するしかない。著者によれば、中国は日本のような信頼社会でもなければ、欧米のような契約社会でもない。「中国はコネ+交渉の社会」なのだという。
これまで日本人が中国市場に抱いていた「儲かる」というビジネス幻想を払拭させるに十分な内容だ。
といっても、中国を笑うことはできない。日本のビジネスの現場でも、コネやワイロ(お金かどうかや、その多寡はともかく)によって仕事が円滑に進むことも多いという現実は、ビジネスパーソンならば知っている話だ。ただ、中国の場合は圧倒的なスピードの資本主義化が進んでいるために、必要悪がグロテスクなまでに猛毒化してしまったということなのかもしれない。
(文=編集部)
『猛毒中国ビジネス 中国人OLは見た!』 バックマージン、アイデア盗用、賄賂…。ありとあらゆる不正がまかり通るビジネス現場。日本企業の一員として最前線で働いてきた中国人女性が暴露する、中国ビジネスの奥底