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話題の「紫の花粉症薬」CM、なぜ色のみ強調?新しい購買構造に対応、優れたマーケ戦略

文=鷹野義昭
話題の「紫の花粉症薬」CM、なぜ色のみ強調?新しい購買構造に対応、優れたマーケ戦略の画像1「アレグラFX」(久光製薬)

 いよいよ春がやってきました。そして花粉も大挙して訪れてきました。

 いまや、予備軍まで含めると日本人の2人に1人以上が罹患しているといわれている花粉症。今回は、そんな花粉対策のアレルギー性鼻炎薬についてのテレビCMを取り上げます。

 さて、「花粉症ののCM」と言われたら何を思い出しますか?

「あの紫色が目に残る、とにかく派手な紫の箱……でも商品名が出てこない」

 はい。企業としては、これで十分なのです。

 一般的に、広告目的で最も大事にしている「商品名」すら覚えられていないCMなのに、なぜ十分なのでしょうか?

●CMメッセージは「紫」という色

 宇宙から地球にやってきたアレグラ人に扮する人気アイドルグループ・嵐の大野智。久光製薬の「アレグラFX」のCMは、昨年から始まりました。そして今年からは、アレグラ人3人組に加えて、あき竹城も母親役として登場、やはりド派手な紫の衣装で商品のインパクトに拍車をかけています。

 CMでは一般的に、KDDI(au)ならばオレンジ、ソフトバンクモバイルならば白、というようにコーポレートカラーをなんとなくちりばめ、視聴者がブランドイメージと結びつけやすくしています。

 しかしこのCMは、商品名称は出しているものの、薬の優位性である「眠くならない」というユニーク・セリング・ポイント(USP)すら言わず、強い「色の押し出し」に徹しています。それには深い訳があるのです。

●2年前から大幅に変わったCM内容

 では、現在のシリーズの前にオンエアされていた、「アレグラFX」の前身といえる薬「アレグラ」のCMは、いったいどんなものでしょうか?

 2011~12年に、ギャグアニメ『ハクション大魔王』(タツノコプロ)を使った「早めに、お医者さんに相談を」というCMが製薬会社のサノフィから出されていました。

「アレグラ」は、一般の薬店で売っていない医科向けのトップブランドの薬でしたが、DTC(Direct To Consumer)という医薬マーケティングの方法によって売り上げを伸ばしていました。

 DTCとは、病気に関する治療法や医療用の薬についての情報を、患者となる一般消費者に認知させることで医師の処方を促し、薬の売り上げにつなげるという手法です。

 例えば、骨粗しょう症、ED(勃起不全)、加齢黄斑変性、禁煙対策、爪水虫、AGA(男性型脱毛)や、ジェネリック医薬品などに関するCMがこれに当たります。

 当時、医師が処方しなければ一般消費者は入手できなかった「アレグラ」に関するCMとしては「花粉症は、お医者さんに相談」「くしゃみが出たら、すぐにお医者さんへ」とのメッセージで十分だったのです。

 ちなみに、DTCでブランド名を出せないという規制が日本にはあるため、製品名や製薬会社名が表に出ていないのですが、実質上は「アレグラ」のCMだったのです。

 その「アレグラ」は、12年11月にターニングポイントを迎えます。

 医科向けの処方薬から市販薬に転用され、薬剤師のいる薬局・薬店で買える第1類医薬品としてOTC(Over The Counter)販売が可能となりました。すなわち、商品が売られていく構造が一昨年から大きく変化したのです。

●OTCの薬として、薬局・薬店での購入に対応したCM

「アレグラ」は街角の薬局・薬店でも手に入るようになりましたが、第1類医薬品は、レジの後ろの棚に置かれるか空箱で陳列されており、消費者が現品を直接手に取って買うことはできません。そして、必ず薬剤師から、使用方法、副作用などの説明を受けてから購入することになっています。

 つまり、薬の詳しい効果効能の説明は薬剤師に任せて、消費者に棚に置いてあるパッケージを指差してもらったり、空箱を手に取ってもらうことが購買のポイントとなるのです。

 そこで、CMの「紫色」と強く連動した視認性の高い「パッケージ」が、大きな力を発揮することになります。消費者に伝えることは「花粉症の薬=紫色」が重要で、かつそれだけで十分ということなのです。

 ところで、「アレグラFX」の最大の競合相手はなんでしょうか?

 同じくOTCの薬として、テレビCMで1年先行していたエスエス製薬の「アレジオン10」です。発売当初の12年は山田優を、今年からは武井咲を起用しています。

 商品名の語感が「アレグラFX」に似ています。効果効能もかなり近しいようです。

 もし仮に「アレグラFX」のCMで、「花粉症にはアレグラ」というメッセージを前面に押し出したとしたら、間違えて競合相手のアレジオンを買ってしまうという、いわば「敵に塩を送る」結果もあり得たと考えられます。

 その点で、競合品やその他の薬品との差別化を意識した、強い紫色を使ったパッケージ戦略に「アレグラFX」は成功しています。

 15秒のCMに「あれもこれもメッセージに入れたい」と考える企業が多く見られる中、しっかりと消費者の購買に至る構造を分析した上での、「色」のみに徹したCMづくり。「緻密さ」の中にも「大胆さ」や「潔さ」さえ感じられる、あっぱれなマーケティング戦略といえましょう。
(文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター)

鷹野義昭

鷹野義昭

株式会社テムズ代表取締役<CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター>
1963年、長野県生まれ。大手広告代理店を経て、90年より現職。テレビCMを中心としたマーケティング戦略立案に携わり25年以上。1000素材を超すテレビCMの戦略策定・分析・広告効果測定の実績を持つ。
主な著書に『CM好感度NO.1だけどモノが売れない謎 ‐明日からテレビCMがもっと面白くなるマーケティング入門‐』(ビジネス社)などがある。近年では、秀逸なローカルCM・地方PR」動画を集めたサイト「ぐろ~かるCM研究所」の所長を務める。

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