「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/5月31日号)は『今世紀最大のプロジェクト リニア革命』という特集を組んでいる。「時速500kmで東京―名古屋間はたった40分。9兆円をかけた巨大プロジェクト『リニア』が今秋着工を迎える。2027年の開業を前に、期待と不安が交錯する」というものだ。
東京(品川)―名古屋間は、たった40分。現在の1時間28分の半分以下で、“通勤圏”になってしまうのだ。2045年には東京(品川)―新大阪間も67分でつながれ、現在の2時間18分に比べて劇的に早くなる。45年には東京―大阪間の人口7300万人の巨大都市圏「東海道スーパーメガロポリス」が誕生する。
ある調査では、リニア開業による経済効果は名古屋開業時で10.7兆円。大阪開業時で16.8兆円。リニアの時間短縮は生産活発化、消費活性化の好循環をもたらすことが期待されているのだ。
総工費9兆円超のリニアはJR東海が単独で事業を手掛け、資金を負担する。長期債務はピーク時には5兆円。それでも、JR東海はリニアを“世界標準”の乗り物にするべく、対米輸出を狙い、技術の無償供与までを検討する前のめりぶりだ。
独占インタビュー『リニアを日米協力の象徴に』では、安倍首相とも蜜月関係にあるJR東海名誉会長の葛西敬之氏が「リニアも日米政府を軸に、当社が全面的に支える形になる。13年の首脳会談では、安倍首相がオバマ大統領に『リニアを日米協力の象徴としたい』と語り、第1弾をワシントン―ボルチモア間で提案していただいた。4月にも山梨県の実験線でケネディ大使にも乗ってもらい、大使は『非常によかった』と言ってくれた」と語っているほどだ。
“まっすぐ”が基本のリニアは、コストや工期で最も効率的な南アルプスを貫通するルートを選んだ。かつてない難工事となるが、「リニアは震災復興や東京五輪が終わった後、国内で残る数少ない巨額案件である。受注にありつけるのは、大成建設や鹿島のほか、大林組、清水建設などのスーパーゼネコン、さらにトンネルを得意とする準大手ゼネコンとみられる。リニアの工事では“オールジャパン”のゼネコンの実力が問われてきそうだ」(特集記事『「五輪の次はリニア」 ゼネコンの皮算用』)
●赤字必至のリニア事業
リニアの始発駅(地下40メートル)となる品川駅も、未開拓の地下を中心に駅周辺の再開発計画が進む。品川―田町駅間にあるJR東日本の車両基地の再開発に伴い、山手線の新駅の設置が決定したと発表されたことも注目を集めている。
しかし、問題もある。リニアの電力消費は既存の新幹線の3倍。大規模なトンネル工事で河川の流量減少、発生残土の処理も懸念されるのだ。
しかも「開業後の事業採算は極めて困難で、運営上のリスクも高く、投資回収も不可能である」というのは、橋山禮治郎千葉商科大学大学院客員教授。特集記事『リニアより最新の新幹線を』によれば、現在の新幹線の座席利用率は60%前後で空席は十分にある。にもかかわらず、リニア計画は「将来の大幅な人口減少も考慮せず、“あるはず”の需要を想定し、その需要の6割は東海道新幹線からの転移客を見込む」「その分だけ、ドル箱の東海道新幹線が大幅減収減益となるが、それでもリニアを含め、東京―大阪間の移動総需要は大幅に増加する前提で収益計画を考えている」「収支は東京―名古屋間開業当初から、大幅な赤字操業が避けられない」と橋山氏。13年9月にはJR東海の山田佳臣社長(現会長)も「リニアは絶対にペイしない」と記者会見で公言しているのだ。