エドキサバンは血管中に血栓ができにくくする抗凝固剤であり、血管が詰まることで起きる脳卒中防止効果が既存医薬品より高いといわれている。同社はこのエドキサバンで年間1000億円程度の売り上げを目指している。
同社がエドキサバンの発売を急いでいるのは、現在の主力医薬品が2016年以降に特許切れとなるパテントクリフを迎えるため。先発医薬品がパテントクリフを迎えると、他社が同一成分のジェネリック(後発医薬品)を市場投入してくるため売り上げが激減し、先発の旨味がなくなる。パテントクリフは新薬を開発する製薬会社共通の悩みの種であり、パテントクリフを迎える前に次の新薬を発売し、特許切れで売り上げが激減する医薬品の穴を埋める必要がある。
例えばエーザイの場合、主力医薬品だったアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の特許が10年から11年にかけて各国で切れ、同薬の12年3月期の売上高が前年同期の2904億円から1471億円へと半減した。
第一三共も、主力医薬品の高血圧症治療薬「オルメテック」にパテントクリフが迫っている。04年発売のオルメテックは同社の主力医薬品であり、14年3月期の連結売上高1兆1182億円のうち26.8%(3002億円)を同薬で稼ぎ出している。この稼ぎ頭のパテントクリフが、日本と欧州は2年半後の17年2月、同薬売り上げの約35%を占める最大市場の米国は16年10月に迫っているのだ。その米国では、特許の切れた先発医薬品は急速にジェネリックにとって代わられ、特許切れ初年度で売り上げの90%が消失するケースもある。
第一三共が、刻一刻とパテントクリフに近づくオルメテックに代わる次期主力として期待しているのが前出のエドキサバン。中山譲治社長がことあるごとに「最短のスケジュールで発売し、早急に大型医薬品に育てる」と市場関係者にPRしてきた新薬だ。
抗凝固薬は1960年代に発売された「ワルファリン」が長く使われ、現在も処方される抗凝固剤全体の約9割を占めている。だが、ワルファリンは投与の前に採血し、血中濃度を測定してからでなければ処方できないのが欠点。つまり処方には手間と時間がかかるわけだ。そんな抗凝固剤市場に近年、こうした手間と時間がかからず、食事制限も不要なNOAC(新抗凝固剤)が登場し、急速に処方シェアを伸ばしている。
●自社単独販売という賭け
第一三共が開発したエドキサバンも、このNOACに属する新薬。同社がPRに力を入れているように、大型医薬品に成長して当然と思われるのだが、市場関係者からは早くも懸念材料が指摘されている。
NOAC事業には米ファイザー、米ブリストル・マイヤーズスクイブ、独バイエルの3社が先発参入しており、第一三共は4番手の参入になるからだ。欧米の先発3社がすでに態勢固めを終えている市場に進出し、先発のシェアを奪うのは容易ではない。