この懸念に応えて、第一三共が打ち出した販売戦略が自社単独販売だった。同社は今年4月1日付で経営戦略部と製品戦略部を統合した。エドキサバンの日米欧販売の司令塔となる部署だ。同社に限らず国内製薬会社が海外で医薬品を販売する場合、販売先の地域で強力な販売網を持っている現地大手と販売提携契約を結び、共同販売するのが基本。ところが、同社は「従来の販売提携では、提携先に販売手数料や販促手数料を支払わなければならず、収益阻害要因になる。当社主導の販促策も打ち難い。そこで刷新した営業体制の下で、効率的な販売を行いたい」との理由で今年5月16日、「エドキサバンは単独販売する」との方針を示したのだった。
だが、第一三共の売上高ランキングは、国内市場(13年調査)でこそ武田薬品工業、アステラス製薬に次ぐ3位だが、世界市場(12年調査)では19位。その第一三共がエドキサバンを欧米で自社単独販売するというのだが、NOAC事業で競合することになる米ファイザーは世界市場のトップで、売上高は第一三共の6倍に近い。米ブリストル・マイヤーズスクイブは世界市場12位で独バイエルは16位。「販売力も経営体力も勝る3強を相手に、本当に売れるのか」(証券関係者)と、不安の声が上がるのも当然と思われる。
●複眼経営の誤算
第一三共は08年に約5000億円で印ジェネリック最大手のランバクシー・ラボラトリーズを買収したものの品質管理問題でつまずき、今年4月、同社を印サン・ファーマシューティカル・インダストリーズへ実質的に売却。15年3月期には相当額の損失計上が予想されている。このランバクシーを買収した目的は、「新薬とジェネリック、先進国と新興国のハイブリッド経営『複眼経営』を実現する」(当時の庄田隆社長、現相談役)だった。しかし、買収計画や買収後の経営管理のずさんさに品質管理問題が加わり、複眼経営は絵に描いた餅となった。
証券アナリストは「エドキサバンの単独販売戦略はランバクシー問題と同じ危うさを感じる。経営説明会やその後の各所での単独販売に関する中山社長の説明を聞いても、どれだけ海外のNOAC事業を分析し、緻密な計画を立てたのかが見えてこない」と述べ、「単独販売ありき」の中山社長の戦略を警戒している。
第一三共は単独販売戦略を成功させ、こうした市場関係者らの懸念を一掃することができるのか。今後の動向に注目が集まっている。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)