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「インフルエンザにウイルスワクチンは無意味」のウソ 「病院が金儲けのため」は陰謀論?

文=六本木博之/フリーライター
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「インフルエンザにウイルスワクチンは無意味」のウソ 「病院が金儲けのため」は陰謀論?の画像1「Thinkstock」より
 今冬はインフルエンザが猛威を振るった。そんなインフルエンザの流行に合わせるかのように、毎年世間を騒がせるのが、「インフルエンザワクチンには効果がない」と主張する「ワクチン否定派」だ。

 1月23日付当サイト記事『WHO、インフルエンザはワクチンで予防不可と結論 病院は巨額利益、接種しても感染多数』も、従来の「ワクチン否定派」の主張をなぞるものだった。

 特に記事の後半で紹介された母里啓子氏は、以前から同じ主張を繰り返してきた「ワクチン否定派」の旗頭ともいえる存在。1934年生まれの大ベテランで、日進月歩で進化する医学界にあって、昔からブレることなく変わらない。

●ワクチンで“完全に”予防はできないが、“ある程度”の効果はある

 母里氏らの主張では、インフルエンザワクチンは“予防効果がない”という。記事の冒頭では、厚生労働省もインフルエンザワクチンの予防効果は“ある程度”しかないと認めているとほのめかされている。

 だが、そもそもインフルエンザワクチンは、感染を“完全”に予防するものではない。それは、厚生労働省も認めているところだ。ワクチンはあくまで、感染を“ある程度”予防し、万が一感染しても重症化を抑えるというもの。それでも十分にインフルエンザの感染拡大を防ぐことができる。

 また、インフルエンザにはさまざまな型があり、年によって流行のパターンが異なる。そのため毎シーズン、どの型のウイルスが流行するかを予測してワクチンを製造するのだが、年によっては予想が外れて感染予防の効果が低くなることも起こりうる。

 また記事には、国立感染症研究所は昨シーズンにA香港型ワクチンを接種しても同型のインフルエンザに感染した人が多かったと認めたとも書かれているが、その原因は以前から指摘されているワクチン株の培養段階の課題であり、ワクチンの効果を否定する理由とはいえない。

●WHOはインフルエンザワクチンの効果を否定しているのか?

 こうした定番的な主張以上に大きなインパクトを与えたのは、都内の匿名内科医の「世界保健機関(WHO)のホームページを見ても、『ワクチンでインフルエンザ感染の予防はできない。また有効とするデータもない』と書いてあります」というコメントだろう。

 天下のWHOが本当にそんなことを公表しているなら、全世界の医療関係者がパニックになってしまう。だが、当該記事にも引用元のアドレスがないため、ソースを探すためにとんでもなく骨を折ってしまった。

 WHOのサイトを検索すると、高病原性鳥インフルエンザのH5N1ウイルスに対して「感染を予防するワクチンが開発されてきているが、普及の準備はできていない」との一文が見つかる。同じく鳥インフルエンザのH7N9ウイルスに対しては「市販されているものに人への感染を防ぐワクチンはない」ともあった。だが、鳥インフルエンザのウイルスが変異してパンデミックを引き起こす可能性はあるが、季節性インフルエンザとは別のものとして考えるべきだろう。現役の内科医であれば、これらを混同するとは思えない。

 そして「これではないか?」とある医師から教えてもらったのが、WHOの季節性インフルエンザに関する解説のページだ。

 そこには確かに、“influenza vaccine may be less effective in preventing illness”と書かれている。先の匿名内科医の発言は、この一文を指しているのだろうか?

 だが、このページには、「インフルエンザワクチンの接種は、感染を予防するための最も効果的な手段」と書かれている。さらに、上記の引用文の前後には、「高齢者の間では、“インフルエンザワクチンは病気予防には効果がより少ないかもしれない”が、重症化や合併症、死亡のリスクを削減できる」と書かれている。

 残念ながら、WHOはインフルエンザワクチンの効果を否定しているとは言いがたそうだ。この件については、さらに検索したものの力及ばず、匿名内科医が主張するWHOのページを探し当てることはできなかった。

 ワクチンがインフルエンザ予防に有効だとする考えを「はっきり言って妄想です」と断言した匿名内科医ではあるが、「もしかするとそのページこそ妄想だったのではないか?」そんな疑念が一瞬、胸をよぎった。

●はたしてワクチンの予防接種は儲かるのか?

 匿名内科医はさらに「医療機関はインフルエンザワクチンによる安定収入を得ているため、予防接種をやめようとしない」と言う。

 そうした噂は昔からよく耳にする。かなり言い古された都市伝説みたいなもので、典型的な陰謀論だ。だが、何度も同じことが繰り返し主張されるとしたら、それは真実かもしれないと思いたくなることもあるだろう。はたして、真相はどうなのだろうか?

 インフルエンザの予防接種は完全自己負担で、医療施設によって異なるが3000~4000円程度。それに対し、ワクチンの仕入れ値は1000~1500円前後といわれる。だとすれば、1500~3000円程度の利益はあるはずだが、実際は検査費用や技術料なども含まれるため、それほど利益率が高いわけではない。病医院の維持費や人件費なども含めて考えれば、案外厳しい数字にも思える。

 だが、埼玉県のある内科医によれば、やり方次第で大きな利益を出すことは不可能ではないという。重要なのは一人の接種にどれだけの時間をかけるかだ。例えば、1つの会場に何百人も集めて、看護師がある程度問診を済ませ、後は時間内に収まるようにひたすら注射を打っていく。そうすれば利益は出るはずだ。

 まるでアイドルグループの握手会会場のようだ。それくらいのことをすれば、かなりの利益が出るかもしれない。だが実際は、現在の医療現場でそこまで徹底して効率よく予防接種をこなすのは難しい。アレルギーや副作用の可能性もある。そのようなリスクを避けるためにも、接種の際には丁寧な問診が必要になってくる。結局、「副作用が起きた場合の手間暇を考えると、収益はなくなると思います」と前述の内科医は言う。

 現在のインフルエンザワクチンの予防接種は任意だ。希望しなければ受けなくてもかまわない。だが、感染した場合のリスクを比較すれば、ワクチン接種のメリットは大きい。それがWHOや厚生労働省、国立感染症研究所の考えだ。

「ワクチン否定派」の主張は刺激的で、人目を惹きやすいものだが、実際には明確な根拠があるとは言いがたい。こうした主張を鵜呑みにしてワクチン接種を取りやめるのではなく、より正確な情報に基づいて判断するようにお願いしたい。
(文=六本木博之/フリーライター)

※2015年1月27日寄稿

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